昨今、デザインを経営に取り入れる企業が増えてきたことで、デザイン人財をどのように活かすかが企業にとっての重要な戦略の一つになってきています。MIXIのデザイン本部では、これからのデザイン職に必要なスキルを視野に入れ、パフォーマンスを発揮しやすい環境づくりを2019年頃から進めています。
デザイン組織の再構築をはじめ、独自の評価指針の策定やリレーション強化を目的とした新グループの発足など、まだ多くの企業が手探りのデザイン経営を事業会社であるMIXIはどのように推進しているのか。
デザイン本部の横山義之さん、安井聡史さん、馬塲士さんの3名に、組織開発の背景や具体的な取り組みなども含め、お話をうかがいました。
経営とデザイン。それぞれの言語に置き換えて双方をシームレスにつなぐ
――はじめに、みなさんの仕事内容や会社での役割をお聞かせください。
横山義之さん(以下、横山): MIXIには、デザイン組織全体のパフォーマンス向上を担うデザイン本部という全社横断的な組織があり、僕はそこの本部長を務めています。業務内容は、250名ほどが在籍するデザイン職全体のマネジメントと並行して、縦の事業部と横の組織がスムーズに連携できるような仕組みづくりに取り組んでいます。
安井聡史さん(以下、安井):僕はデザイン本部のなかにある、ブランドデザイン室で室長をしています。弊社のパーパスに基づいた行動を全従業員ができるように、デザインの力で推進することが僕の役割です。
一方で、ブランドデザイン室のなかにある「Designer Relations グループ」という組織のマネジメントも兼務しています。こちらでは、MIXIのデザイン職のスキルアップのための社内イベントの実施や、社内向けの発信などをおこなっています。
馬塲士さん(以下、馬塲):僕は昨年の4月に新卒で入社して、現在はデザイン本部のプロダクトデザイン室でデザイナーをしています。事業部の人たちと連携しながらグラフィックやUI・UXをおもに担当しています。
――現在MIXIのデザイン組織ではマトリックス型の組織体制を実践されていますが、いまの体制になる前に抱えていた課題などがあったのでしょうか?
横山:事業が拡大しデザイン職もどんどん増えてきた頃から、デザイン職のパフォーマンスをより高めるにはどうすればいいか、どのようなマネジメント方法をとるべきかなどを考えるなかで、各事業部の事業規模やサービス形態に応じて最適化できるように、マトリックス型の体制になりました。
課題に対する解決策というよりも、より良くなる形を模索しながら組織をアップデートしてきたような感じです。
――デザイン職のパフォーマンスを高める方法の一つとして、MIXIでは経営部門とデザインをシームレスにつなぐことを目指されていますが、具体的にどういったことをされていますか?
横山:デザイン本部独自のケイパビリティが経営や事業の意思決定に影響をおよぼすまで入り込んでいる状態を目指し、デザイン本部のケイパビリティを一つひとつ定義し、ケイパビリティを軸にしたマネジメント体制に再構築してきました。
横山:その上で経営とデザインの現場のズレをなくし、お互いの現状を認識できるように、僕はまず情報の流通量を増やして、経営がどういう考えに基づいて何をしているかをデザインの現場に下ろしていくことからはじめました。
そのなかで、デザイン職は経営が描く未来に対してデザイン職・組織がどうあるべきかをマネジメントチームでディスカッションして考えていきました。同様に、デザイン組織がどんな活動をしているのかも経営にフィードバックして、「見える化」に取り組んでいます。
そのときに気をつけているのが、双方の言語に置き換えてわかりやすく説明することです。例えば、世に出たものがユーザーにどのくらい反響があるのか、どこが弊社のデザイン職としての新たなトライなのか、多くのデザイン職を抱えるなかでどの事業にどのくらいアサインできているのかなど、数値化できるところは数値化して、経営側に翻訳するようなイメージです。
反対に、経営の議論をデザインの現場に置き換えるといった逆の翻訳も心がけています。そうして互いに解像度を高め合っている最中です。
――デザイン経営が一般化してきてデザイン部門を内製化する企業も増えましたが、他社だと経営とデザインの関わりがなかなか難しいといった話も聞きます。
横山:難しいですよね(苦笑)。僕らも含め、各社トライしている最中だと思います。ただ、どの仕事にも共通することだと思いますが、相手が知りたい情報や、相手が意思決定するために必要な情報は何かを常に考えるようにしています。経営とデザインを行き来しながら、それをわかりやすく伝えるレポートをつくっている感じですね。
――安井さんもマネジメントの立場ですが、情報伝達など何か意識されていることはありますか?
安井:当然、横山を通じて情報が経営層に伝わるので、どういった情報なら有益か、それがどこに届くかということは意識しています。
また、社内でうまくリレーションしながら仕事をする上で、隣の動画クリエイティブ室、プロダクトデザイン室の仕事に興味をもつ、反対に僕らも彼らに興味をもってもらわないといけませんし、そこも大事な要素だと考えています。
――馬塲さんは入社してもうすぐ1年経ちますが、自社のコミュニケーションのあり方や情報伝達の仕方で何か感じるところはありますか?
馬塲:何かわからないことがあったときに、大学で親しい先輩に聞くように気軽に質問できる環境があるのがうれしいです。「1 on 1」という、困っていることやわからないことを先輩が1対1で丁寧に聞いてくれる時間が、毎週あるのでとても心強いです。
デザイン職独自の評価指針がさらなるモチベーションに
――MIXIではデザイン職独自の評価指針を設定して2019年から採用していますが、どのような内容でしょうか。
横山:評価指針は、MIXIの人事評価制度をデザイン職向けに翻訳したもので、適宜アップデートしながら運用しています。事業会社のデザイン職の理想的なあり方を定義し、グレードに求める視座、必要なスキル、次のグレードへの登り方で構成していて、それが達成されたかどうかを評価の指針にしています。
横山:デザインの仕事はものをつくるだけではなく、つくったことでどのような成果があり、事業や組織にどのような影響があるのかまで計測する必要があると考えています。弊社のような事業会社のデザイン組織ならなおさらです。
――安井さんはこの評価指針があることで業務がやりやすくなったなど、何か感じる部分はありますか?
安井:一般的な人事制度や評価制度ではなく、デザイン職に馴染みやすいように横山が翻訳してくれたのは、僕たちマネジメントにとってもすごくありがたいです。
以前は全社の評価制度をマネジメントが現場で応用しながら評価していましたが、その時と比べるとよりやりやすくなっていると感じます。実際にまわりを見ても、この評価指針をもとにきちんとラダーを組んでマネジメントからメンバーに伝えるグループが増えているので、それは良い傾向だと思います。
また、僕の場合は横山からフィードバックをもらうことになるのですが、評価指針をもとに、いま自分がこの位置にいてここが足りないということを率直に伝えてくれます。補強するべき点が明確になって、目標が立てやすくなりました。
――次に目指すものがクリアになると、仕事にもどんどん前向きに取り組めますよね。
横山:そうですね。仕事をするなかで、忙しさにのまれてしまうことってたくさんあると思うんです。そのときに指針があることで、果たして自分はその等級の振る舞いができているのか、一歩立ち止まって考えるきっかけになりますよね。
評価指針を策定する前もフィードバックはおこなっていましたが、どうすれば次の等級に上がれるのか、課題をどう改善すればいいのか、いまいちわかりづらいフィードバックが現場からするとありました。指針をきちんと言語化したことでマネジメントも現場に伝えやすくなると思いました。
また、お互いが業務でどのような振る舞いを期待しているかを会話するためのコミュニケーションツールのようなイメージでもつくっています。
――馬塲さんはこういった指針があることがモチベーションになっていますか?
馬塲:年に2度、上長と目標設定をおこなうタイミングがあるのですが、自分の等級だと何ができる状態がベストなのか明文化されているので、今期に達成すべき課題やゴールが見えやすいのはありがたいです。さらに次の等級にステップアップするために必要なこともわかっているので、それが仕事に取り組むモチベーションにもなっています。
――横山さんから見て、評価指針を設定してからデザイン職の方々がいちばん変わったと感じる部分はどこでしょうか?
横山:デザイン職がいろいろな情報をより求めるようになりました。その一つが「マネジメントが何を考えているのか、どんな期待をしているのか知りたい」ということ。それはポジティブなことだと捉えていて、フィードバックに対してきちんと応えたいという思いがデザイン職のなかにしっかりあるということです。
もちろん評価されたいのもあるでしょうが、本質をつかんだ上で仕事に取り組みたいという、デザイン職としてのマインドセットの表れでもあると思います。マネジメントと現場のデザイン職も、より健全な関係性で仕事ができるようになってきている気がします。
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