ここ数年で見聞きする機会が大きく増えたキーワード「デザイン経営」。多くの企業が上流からデザイン視点に取り組み、デザインチームを内製化するなど、インハウスデザイナーの役割も大きく変化してきました。本企画は「“デザインチーム”のある会社」と題し、事業会社で働くデザイナーにインタビュー。ブランドや会社を育てる魅力、事業会社で働く強みなど、さまざまな角度からお話をうかがいます。
第1弾として紹介するのは、コニカミノルタジャパン株式会社。複合機や精密機器などの印象が強い同社ですが、精力的に空間デザイン事業を手がけていることをご存じでしょうか?
2018年に設立された空間デザイン統括部は、オフィスの空間デザインはもちろん、業務効率化や働き方改革までトータルに提案し、顧客の課題を解決する部署。外部への提案だけでなく、自社オフィスのデザインや働き方改革など社内向けの取り組みも担当しています。
今回、同社の空間デザイン統括部から、デザイングループリーダーの梅田眞世さんとデザイナーの辻仁実さんに、同社の空間デザイナーならではのやりがいや得られる経験などについてお話しいただきました。
コニカミノルタジャパンの空間デザイナーになったきっかけ
――まずお二人の入社の経緯を教えてください。
梅田眞世さん(以下、梅田):前職ではオフィスデザインを中心に手がける設計事務所に勤めていました。「デザイナーとしていまよりももっと挑戦の幅を広げたい」という想いが強まり、転職活動をはじめました。
そんななか、リクルーターからの紹介で、コニカミノルタジャパンが空間デザイン事業をおこなっていることを知りました。オフィス空間やITツール、働き方のコンサルティングなど、製品カテゴリに縛られず、お客様の課題を解決していることを知り、ここなら前職で培ったスキルや知識を活かしながら多面的な提案ができ、自分にとって新しい視点を身につけられる環境だと感じ、入社を決意しました。
辻仁実さん(以下、辻):私は前職では空間デザインとは異なる仕事をしていました。しかし、学生時代に学んでいた空間デザイン分野に携わりたい想いが募り、第二新卒として就職活動を開始しました。
数ある企業の中からコニカミノルタジャパンに惹かれた理由は、事業の幅広さです。空間デザインだけでなく、オフィスのペーパーレス化など働き方の側面からもアプローチする機会も多く、成長環境としてぴったりだと思いました。また、空間デザイン統括部はお客様だけでなく、自社のオフィス環境づくりも担当しているため、自分の働く環境をデザインできることにも魅力を感じました。
ただ空間をデザインするのではなく、働き方をデザインする
――空間デザイン統括部はどのような部署なのでしょうか?
梅田:空間デザインのプロフェッショナルとして、外部のお客様と社内、両方のオフィスデザインを手がけています。強みは大きく2つで、1つは空間デザインというハード面だけでなく、他部署と連携しながらより働きやすい仕組みも提案できること。
新しいオフィス空間だけを提供しても、社内の制度や働く人の意識が変わらなければ、働き方を変えることはできません。そのため、私たちはペーパーレス化やICTの導入、働き方改革なども一緒に提案することで、より心地よくオフィスを利用してもらえる環境をつくっています。
もう1つは、自分たちの手で自社オフィスをデザインしていることです。2021年には、本社リニューアルプロジェクトとして「つなぐオフィス」を設計しました。一人ひとりが働きたい場所を自由に選択できるABW(Activity Based Working)を採用し、多様化する働き方に応えるオフィスを実現させました。
辻:自分たちの手でオフィスをデザインすることで、良いところだけでなく、失敗も認識できる。「コラボレーションエリアを用意したけど、こういった部分に不満の声があった」など、実際に空間を使ったことで得られたリアルな意見を紹介できるんです。私たちの失敗も成功の材料にしながら、より最適なオフィスをお客様と一緒に考えることができます。
オフィスの存在意義を捉え直した「つなぐオフィス」
――どのような経緯で「つなぐオフィス」プロジェクトがはじまったのでしょうか?
梅田:コニカミノルタジャパンでは、コロナ禍以前から積極的に働き方改革に取り組んでいました。フリーアドレスもいち早く導入しましたが、働き方の多様化を実現するには席を自由にするだけでは十分ではないのではと、社内で議論が生まれたんです。
そこで、2020年からABWの考え方を社内に浸透させていく取り組みをスタート。その時々の仕事内容に合わせて、自宅やカフェなど働く場所を自由に選択して働けるように仕組みをつくっていきました。そんななかで突入したコロナ禍。ABWに基づいた働き方を導入していたため、フルリモートワークへの移行はスムーズでした。
梅田:問題は、コロナ禍が明けてからどうするのか。「働く場所が自由に選べるなかで、オフィスは社員にとってどのような存在であるべきなのだろう?」―その問いの答えを出すべく、経営企画部や総務部、空間デザイン統括部など、さまざまな事業部のメンバーが集まって「つなぐオフィス委員会」を発足。それぞれがこの会社にとって必要なオフィスとはなにか意見を出し合い、最終的にオフィスに必要な要素を3つに集約しました。
社員のエンゲージメントを高める場、生産性を高める場、そしてコラボレーションで発想を生む場。この3つを叶えられるオフィスの実現に向け、私たち空間デザイン統括部が具体化していきました。
こうして完成したのが、7つのエリアに分かれたアジャイル型のオフィスです。集中して業務をおこなう「High Focus」、議論を弾ませる「High Collaboration」、創造性を高める「High Creativity」などのエリアに分け、構成しています。資料づくりに集中したい時、チームメンバーとコミュニケーションを取りたい時、アイデアをたくさん出したい時と、用途に合わせて働く場所を社内で選択できる環境を整えました。
――辻さんは「つなぐオフィス」完成後に入社されていますが、最初にオフィスを見た時はどのように感じましたか?
辻:私がイメージしていたオフィス像とまったく違っていて、とても驚きました。就職活動でいろんな企業を訪問する機会がありましたが、社員が一番のびのびと働いているように感じ、率直に「ここでなら長く働けるかも…」と思いました。実際に「つなぐオフィス」で働くようになり、作業場所が自由に選択できることで気分転換を図れるのは、とてもありがたいです。
梅田:そう言ってもらえて私も嬉しいです。コロナ禍でなにが正解かわからないなかでつくったオフィスだったので、社員のみんなから好評の声をもらえた時はホッとしましたね。ただ、新しいオフィスの使い方に戸惑う声も聞かれました。
梅田:たとえば、フロアの真ん中にあるコラボレーションスペースは、「どのエリアからも目線に入るオープンな空間で利用しづらい」と利用率がいまいちでした。「つなぐオフィス」は実証実験を前提としたオフィスなので、そういったネガティブな意見も参考にしながら、改良に改良を重ねていきました。リニューアルから2年経ったいま、社員それぞれが自分なりの使い方を見出しながら働いているのを見て、やった甲斐があったなと感じています。
次ページ:コニカミノルタジャパンだからこそできる、空間デザインにとどまらない提案と得られる経験
- 1
- 2