JDNの創刊25周年を記念し、10月26日から3回にわたって開催したトークイベント「デザインを『つくる』『使う』『考える』」。JDNのタグラインである「つくる」「使う」「考える」を各回のテーマに据え、さまざまなジャンルで活躍するクリエイターのみなさんを招いてトークセッションをおこないました。
「使う」をテーマにした第2弾では、JDNの人気コンテンツ「空間デザイン事例」で反響が大きかった、地域社会に導入された2つの事例「未来コンビニ」と「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」に注目。未来コンビニからは、プロジェクトの発起人の藤田恭嗣さんと、建築・デザインを手がけた佐藤航さん。上勝町ゼロ・ウェイストセンターからは、当施設を設計した中村拓志さんと運営を担当する大塚桃奈さんにご出演いただきました。
施主、設計、運営それぞれの視点から、地域社会に「使われる」ためのデザイン設計や完成後の地域浸透についてうかがったトークセッションの様子をお届けします。
地域課題に向き合うそれぞれの活動
――はじめに簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。先に未来コンビニ側の佐藤さんと藤田さんからお願いします。
佐藤航さん(以下、佐藤):私はコクヨ株式会社クリエイティブデザイン部の部長兼チーフデザイナーとして、プロダクトから建築、街づくりまでスケールを横断しながらデザインをおこなっています。
佐藤:これまでプロダクトから環境全体のデザイン、ある時は音楽イベントの企画など、ジャンルやスケールを問わずさまざまなクリエイティブに携わってきました。その中で、個人の共通テーマとしているのは境界を越えて「混ぜること」です。
さまざまなスケールのデザインを組み合わせたり、他業界同士のクリエイターをつなぐイベントを企画したり、「はたらく」と「くらす」を混ぜた空間を生み出したり。要素の異なるものを混ぜることで次の日常をつくりたい、そんな想いでデザインしています。今回お話しする「未来コンビニ」も地域社会とデザインをうまく混ぜ合わせることを意識して設計しました。
藤田恭嗣さん(以下、藤田):僕は徳島県の旧木頭村(現那賀町木頭)という人口1,000人ほどの村で生まれ育ちました。大学進学を機に徳島県を出て、大学在籍中に起業。その後、会社が東証マザーズに上場したタイミングで、改めて自分を育ててくれた故郷に恩返しをしたいと思い、KITO DESIGN HOLDINGSを立ち上げました。
藤田:「全ての人が笑顔になれる奇跡の村を創る」をビジョンに掲げる当社の使命は、木頭の魅力をデザインの力で再定義することです。木頭の特産である柚子の事業の立ち上げや、閉鎖していたキャンプ場のリノベーションなど、村にもともとあるものを再活性化する活動を精力的におこなっています。今回お話しする「未来コンビニ」も数ある地域活性プロジェクトの1つです。
――では次に、上勝町ゼロ・ウェイストセンター側の中村さん、大塚さんも自己紹介をお願いします。
中村拓志さん(以下、中村):建築設計事務所の代表を務めながら、建築家として街づくりから家具まで幅広い領域に携わっています。設計をする上で最も大切にしているのが、「その地域や使う人にとって最適なものは何か」を追求することです。
中村:環境保護やSDGsと資本主義は一般的に相反するものだと捉えられています。しかし僕ら建築家はそこを矛盾なく繋ぎ、社会をより良くしていかなければならないと思います。例えば、集合住宅「Dancing trees, Singing birds」の建設地は、超都心には珍しい高さ15mの木が生い茂っている場所でした。僕はここで木をまったく切らずに極力容積を確保する提案をしました。森の保存と最大容積を求める資本主義を架橋することが建築家の使命だと考えたのです。「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」も、人の消費活動と自然環境の調和について追求しながら設計した建物です。
大塚桃奈さん(以下、大塚):私は徳島県上勝町に移住して3年目になるのですが、移住のきっかけは、大学時代にこの町を訪れたことでした。学生時代から大量生産・大量消費によるゴミの問題に心を痛めていて、自分がどのように貢献できるか考えたいと、長年ゴミの問題に向き合っている上勝町へ。ここでの活動をもっともっと多くの人に伝えたい。そんな想いから移住を決め、新しくオープンしたばかりの「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」で働きはじめました。
現在は当施設のCEO(Chief Environmental Officer)として、併設しているホテルの運営や年間約5,000人の視察者の対応、ゴミ問題について考えるイベント企画など、地域の方と手を取り合いながらゴミの削減活動を町外に発信しています。
過疎地域が抱える課題にデザインの力で立ち向かう
――では、それぞれの地域が持っていた課題や施設設立にいたった経緯についておうかがいいできればと思います。「未来コンビニ」のある木頭にはどのような課題があったのでしょうか?
藤田:木頭は人口およそ1,000人、その6割が65歳以上という過疎化が深刻な村です。村にはコンビニはおろか商店もほとんどなく、最寄りのコンビニまでみんなで車を乗り合わせて1時間半かけて移動する。そんな状況にある木頭のおじいちゃん・おばあちゃんから「村にコンビニをつくってほしい」と依頼があったことがプロジェクト発足のきっかけでした。しかし、普通のコンビニをつくるだけでは、木頭の豊かな自然やさまざまな魅力を発信するのには不十分。そこで、デザインの力を取り入れた「世界一美しいコンビニ」の建設を決意しました。
藤田:名前にある「未来」という言葉は、先進技術を取り入れることを意味しているのではなく、「未来の主役となる子どもたちのためのコンビニにしたい」という想いから着想したものです。外部との接点が少ない村の子どもたちが、世界一美しいコンビニに触れることで感性が刺激され、クリエイティブな発見や体験ができる。そんなコンビニを目指そうと思いました。
加えて、村のシンボルをつくることで外から人を呼び、地域活性につなげたいという想いもありました。実際に当施設は買い物に来た地域住民と観光客の交流の場としての役割を担っています。
――続いて、上勝町の課題や「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」設立の経緯についてもお聞かせください。
大塚:上勝町は、野焼きの禁止やダイオキシン問題による小型焼却炉の閉鎖など、町内で廃棄物を処理する選択肢がないというピンチが続いたことをきっかけに、ゴミに対する考え方を問い直すようになりました。“ゴミを燃やすのではなく、資源に変えよう”という意志のもと取り組み続け、2003年には日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表しました。未来に豊かな資源を継承するため、ゴミの再利用・再資源化によって、焼却・埋め立て処分をゼロにすることを宣言したもので、20年経ったいまでも13種類45分別の取り組みや生ゴミの堆肥化、中古品のリユースといった活動が続いており、約80%のリサイクル率を達成しています。
中村:僕は元々別のプロジェクトで上勝町を訪れていたのですが、その際に旧ゴミステーションを見学する機会がありました。そこで地域住民の方がゴミを分別する姿や併設されたリユースショップを見て、資源を無駄にしないという住民たちの意志に強く感銘を受けたのです。
この活動の重要性をぜひ世界中に広めたい。そして、上勝町に魅力を感じた人たちに移住してもらい、最終的に上勝町民のみなさんが自分たちの取り組みや町を誇りに思える町にしたい。そんな想いから、外部の人が上勝町の取り組みを体験できる環境配慮型複合施設のアイデアをまとめ、すぐさま町長に直談判しに行きました。
そして、旧ゴミステーションを分別施設としてだけでなく、ゴミを起点とした新たな出会いの場にすることを提案しました。こうして2020年、旧ゴミステーションはホテルやコミュニティホールを併設した「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」として生まれ変わりました。
地域社会に“使われる”ことを意識したデザイン
――木頭と上勝町、それぞれの地域課題を解決すべく、デザインや設計面ではどのような工夫やこだわりがあったのでしょうか?
佐藤:「未来コンビニ」は大きく3つのことを意識しながら設計しました。1つ目は、地域の方の誇りを一番大事にすること。木頭は柚子の接木に日本で初めて成功した地でもあります。だからこそ、柚子をキーワードに木頭ならではの自然の美しさを感じられるデザインにと思い、立体トラスという構造を採用。部材を柚子の木に見立てて黄色く塗り、加えて木頭は日本で一番降雨量の多い地域のため、ゆずの木々に大屋根をかけることで、木頭のアイデンティティを表現しました。
佐藤:2つ目は、コンビニのようでコンビニに見えないデザインにすること。「未来コンビニ」には木頭の子どもたちの未来を照らすと同時に、地域住民が交流するコミュニティとしての役割もあります。そのため、未来感と日常感のバランスを考え、次の日常を体感できるものにしたいと思いました。例えば、まわりの大自然とのコントラスト。完全に自然に溶け込ませるのではなく、異質なデザインを加えることで、この場が次の木頭を作る活力ある場になってもらいたいと考えました。
3つ目は高さです。コンビニ什器は135cmと低く、カフェスペースの椅子や机は通常よりも5cm低く、子どもや高齢者に使い勝手が良く、圧迫感のない寸法にしています。また、個室やバックヤードの壁も低く、来訪者や地域の方々、そしてスタッフの方々が一つ屋根の下で同じ空間を共有できます。さらに建築の高さを抑えて水平に伸ばすことで、木頭の自然との連動を考えました。
――「未来コンビニ」のデザインに関して、藤田さんは佐藤さんとどのようなやりとりをされていたのでしょうか?
藤田:デザインはアイデア段階から佐藤さんと何度もディスカッションを重ねました。佐藤さんは地域にあるものを活かしたいという想いがある一方で、僕は地域にないものを生み出したかった。当初は真逆の意見を持っていましたが、複数の議論の中で木頭の良さを残しつつ木頭にあるからこそ映えるデザインを探っていきました。
佐藤: 僕は、藤田さんとのディスカッションの中で、自分にはない視点の意見から自らのバイアスに気付かされることが多くあったことが印象に残っています。さまざまなアイデアを混ぜながら、最終的に唯一無二のコンビニをつくることができたと思います。
――上勝町のゴミステーションを「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」に一新する際には、デザインや設計においてどのような工夫があったのでしょうか?
中村:ゴミを資源に変えている上勝町に新しく施設をつくるにあたって、外から建材を買ってくるのではなく、上勝町内のゴミを建材として利用しました。屋根やダクトなど防水機能が必須の金属系資材はやむなく外から調達しましたが、それ以外はほとんどゴミを使いました。また、壁や柱などは地域の杉材を使い、ボルト接合で将来の解体時も分別しやすいよう工夫しました。町民から使わなくなった建具やドアノブを募り、そのまま再利用しています。完成後、町民の方々が再利用された建具を見て、思い出を語り合う場面も見られました。
――地域の木材や住民も思い出の品を使うなど、施工時から地域に馴染ませる工夫がなされていたのですね。運営する中でも施設を地域に馴染ませる施策はされているのでしょうか?
大塚:「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」は、地元住民と外から移住してきたスタッフが協力して運営しています。施設が地域に馴染むためには、まずスタッフが上勝町に馴染むことが大切だと思うんです。そのためには、町の皆さんと同じ景色を見ることが必要です。例えば、担い手が不足している田んぼに足を運び一緒にお米を育てています。その中で、彼らが見ている風景や未来に残したい価値を深く理解することが、町民に愛される施設づくりにつながるのではないかと考えています。
――「未来コンビニ」では、施設を地域に受け入れてもらうためにどのような工夫や施策をされているのでしょうか?
佐藤:「未来コンビニ」の隣には、訪れた人たちが一息つけるテラスエリアがあります。そこに使われている石垣は、施設が建てられる前にあった小学校の石垣をそのまま生かしたものなんです。また、植栽で施設を取り囲むことで「未来コンビニ」と周りの原生林の境目が滑らかに見えるよう工夫しました。もともとある地形や自然を生かしたことで、新しい施設が村に馴染み、地域住民にも受け入れてもらいやすいデザインになったと思います。
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