この成長の影の立役者とも言えるのが、デザイン戦略室だ。デザインの力で最高の利用体験を世の中に届けるために、全社のデザイナーを横断的につなぐ役割を担っている。昨年には他部署と連携したオフィス拡張プロジェクトも始動し、2023年3月にリニューアルオープン。マネーフォワードのインハウスデザイナーは、サービスからオフィスまで社内のあらゆるものをデザインしている。
今回、同社デザイナー第1号の金井恵子さん、CDOの伊藤セルジオ大輔さん、デザイン戦略室の寺村卓朗さんの3名に、デザイン戦略室設立の経緯や社内でのデザインの広がり、インハウスデザイナーの魅力についてお話をうかがった。
デザイナーから、会社をデザインするインハウスデザイナーへ
――みなさんマネーフォワードのインハウスデザイナーとして中途入社していますが、入社の経緯を教えてください。
金井恵子さん(以下、金井):私は制作会社のデザイナーやフリーランスデザイナーを経て、マネーフォワードに入社しました。制作会社、フリーランスともにクライアントワークがメインで、デザインでお客様の課題を解決することにやりがいはありました。でも、納品後の成果までコミットできないことにもどかしさを感じていました。
「自分のアウトプットに最後まで責任を持てる環境に進みたい」と考えていた時に出会ったのが、マネーフォワードでした。当時は創業して間もないスタートアップ企業で、まだデザイナーの採用実績もなかったんです。そんなゼロから会社をデザインできる環境に魅力を感じ入社しました。
伊藤セルジオ大輔さん(以下、セルジオ):入社前は、デザイン事務所を経営していて、実はマネーフォワードはクライアントだったんです(笑)。マネーフォワードが新規事業を立ち上げる際に、外部デザイナーとしてプロジェクトに参加しました。それから、マネーフォワードのデザイン組織強化にも関わらせてもらうようになりました。そうした流れもあって、金井さんと代表の辻さんからCDOのオファーをいただき、現在にいたります。
金井:社内でデザインの重要性が高まり、CDOを迎えようとなった時に、セルジオさんしかいないと思いました。最初は断られましたけどね(笑)。
セルジオ:自分の会社がありましたからね(笑)。ですが、2020年にコロナによって世の中の働き方が大きく変わったことで、マネーフォワードが果たす役割の大きさをより強く意識するようになったんです。人々が必要とするものを、この人たちとつくっていきたい。そんな思いが強くなり、CDOを引き受けました。
寺村卓朗さん(以下、寺村):私はデザイン事務所で働いている中で、デザイナーとして付加価値をつける必要があると感じ、ブランディングに興味を持つようになりました。クライアントやプランナーと一緒にブランドのコンセプトをねり、それを形づくる術としてデザインを応用する。そうやって世の中の活動を前へ進めるパートナーとしてのデザイナーになるために、ブランドエージェンシーに転職しました。
寺村:マネーフォワードに興味を持ったのは、デザイナー第1号として入社した金井さんが執筆した記事がきっかけです。そこに書いてあったのは、行動指針が載ったカードのデザイン依頼を受けた時、その内容にまで踏み込んで、もっと会社本来の魅力が盛り込まれた、より社内に浸透する行動指針へと刷新したという内容でした。
内部で深い共感を生み、主体性が生まれるまで浸透しなければ、コンセプトやデザインの力を持続的に機能させるのは難しい。マネーフォワードならデザイナーという職能を拡張して、ブランディングをやり切れるんじゃないか。そう強く感じて入社を決めました。
金井:うれしいですね。行動指針の刷新は、私がデザイナーとして入社して最初の大仕事でした。私が入社するまで社内にデザイナーがいなかったため、デザイナーにどんな仕事を依頼すればいいのかわかっている人がほとんどいませんでした。そんな環境の中で、いちデザイナーからの提案を果たして受け入れてもらえるのか不安はありましたが、少しでもデザインが貢献できる領域の幅広さを知ってもらいたくてはじめた活動だったんです。
デザインの可能性を社内外に発信していく
――次にマネーフォワードの成長に大きく貢献しているデザイン戦略室について、お話を聞かせてください。
金井:デザイン戦略室の前身となるデザイン組織は、マネーフォワード創業3年目の2015年に設立されました。当時のマネーフォワードは、エンジニア主体の会社でした。デザイナーとして転職してきた私は、デザイナーのスキルをうまく活かしきれていない現状にもったいなさを感じました。そこでデザインの力や可能性をもっと社内の人に理解してもらうためにも、「デザイン組織は必要」ということで、デザイン戦略室を立ち上げることになりました。
会社の成長とともに事業が多角化していくと、デザイン組織の体制も変える必要が出てきました。そこで採用したのが、事業部ごとにデザイン部門を配置する分権型の体制。しかし、この体制にすると、縦に組織を区切っていくので、デザイン部門の横の連携が弱くなってしまうんです。この課題解決に向けて、名乗りを上げてくれたのがセルジオさんでした。
セルジオ:多くの人々に私たちのサービスを届けるためには、お客様に信頼していただけるブランドである必要があります。信頼を積み上げるには、デザインの力で一貫性のある世界観をつくることが重要です。
そこで、各事業部のデザイン部門を横断的につなげる組織として、デザイン戦略室を設立しました。現在、ブランドの世界観統一はもちろん、全事業部のデザイナーを集めたナレッジ共有会など、デザイン部門をつなげることで、デザイナーとしての成長を促す仕組みづくりもおこなっています。
事業会社でインハウスデザイナーをする魅力
――金井さんはデザイナー主体の制作会社からエンジニア主体のマネーフォワードに転職したとのことで、カルチャー的なギャップも大きそうですね。
金井:そうですね。ですが、当時から新しいことに前向きにチャレンジする土壌はあったので、私がデザインでどんなことができるのか発信すれば、もっと良い会社になると思いました。行動指針を刷新して、まだ言語化されていなかった会社のカルチャーを言葉やデザインに落とし込んだことで、社内の浸透度も高まりましたね。デザインの力で、マネーフォワードらしさがどんどん浮き彫りになり、メンバーが同じ方向を向けるようになったと思います。
セルジオ:私がマネーフォワードと出会ったころはすでに「デザインに理解のある会社」という印象を持っていました。これも金井さんの頑張りがあってこそだと思います。
――デザイン事務所の経営者からマネーフォワードのCDOに転職したセルジオさんが感じたインハウスデザイナーの魅力を教えてください。
セルジオ:デザイン事務所時代との一番の違いは、育てている感触ですね。デザイン事務所では、ゼロイチで瞬発力のあるデザインを生み出す感覚でしたが、事業会社のインハウスデザイナーはブランドやプロダクトをちょっとずつ育てている感覚があります。生み出したデザインによってブランドがどのように成長していくのか。じっくりゆっくり時間をかけて楽しめることがインハウスデザイナーの魅力だと思います。
寺村:セルジオさんがおっしゃるように、コツコツと育てている感覚は私も実感しています。すべてのアクションが会社の未来に直結するので、より中長期的な視点でデザインを捉える必要があります。だからこそ、みんなで2年後3年後を想像しながら、自分たちの手で会社の未来をつくっている感覚があって、やりがいも大きいです。
また、マネーフォワードには一緒に何かをつくろうとするカルチャーがあるので、チャレンジングなアクションでも実現できると信じて推進できます。マネーフォワードに入社するまで、自分はコミュニケーションを取ることが苦手でした。しかし、そういったカルチャーが根付いているおかげで、自分の意見を発信することが楽しいと思えるようになったんです。
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