パリ2024オリンピックが7月26日から開幕し、連日さまざまなメディアで情報が取り上げられています。近年、健康意識の高まりからスポーツに力を入れている企業が増えているなか、アメリカンフットボールや陸上などの実業団をもち、早くからスポーツを通じた社会貢献活動を展開してきたのが、富士通株式会社です。
なかでも富士通企業スポーツ推進室では、「子どもたちの挑戦・学び」「共生社会」「環境」という3つの軸でさまざまな活動に取り組んでいます。さまざまな課題を解決し、より良い社会をつくっていくには?本記事では、富士通企業スポーツ推進室の特徴的な活動にフォーカスします。
スポーツの力で共感を生み、社会にポジティブな変化を
――今回は3名の方にお話をうかがいたいと思います。まずはみなさんのこれまでの来歴などを教えてください。
常盤真也さん(以下、常盤):現在、企業スポーツ推進室で室長をしていますが、もともとは富士通のアメリカンフットボール部の選手として活動しながら営業職を兼任していました。2000年に選手を引退、3年間コーチを努め、その後は営業職一本で活動。2021年に企業スポーツ推進室に異動になり、スポーツの世界に帰ってきました。
武藤弘さん(以下、武藤):私は2003年にシステムエンジニアとして入社し、その後東日本大震災後に仙台市役所に公務員として1年半くらい出向していました。その後、2017年から東京2020のオリンピック・パラリンピックを担当し、企業スポーツ推進室に異動になりました。
白鳥真由子さん(以下、白鳥):私は2011年に富士通に入社し、当初は新人研修や幹部社員研修など研修事務局の担当業務をしていました。 同時にチアリーダー部に所属し、キャプテンも務めました。引退後に産休・育休を経て、企業スポーツ推進室に異動しました。
――ありがとうございます。そもそも企業スポーツ推進室はどういった経緯でできた部署なのでしょうか?
常盤:もともと社内ではちがうセクションがスポーツを担当していましたが、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催でスポーツのムーブメントが高まり、富士通としてもしっかりマネジメントしていくために2018年に企業スポーツ推進室が立ち上がりました。現在は30人弱のメンバーがいます。
最近はほかの企業でもスポーツへの関心が高まっているようで、他社からヒアリングされることもあります。このFujitsu Infinity Sports Squareは2021年につくったスペースですが、見学に来られた方から好評をいただいています。
――そもそも富士通はなぜスポーツに力を入れているのでしょうか?
常盤:答えを探している最中ではありますが、やはりスポーツは人々が元気になれるひとつの要素だと思っています。さらに地域に根付いたものでもあると思うんです。富士通の設立は神奈川県川崎市で、我々のアメリカンフットボールや女子バスケットボールのチームの拠点は現在も川崎にあり、近々陸上部の拠点も川崎になる予定です。もともとサッカーの川崎フロンターレも富士通サッカー部が前身で、現在も親会社でもあり、フロンターレへの協賛の窓口機能も担っています。
――企業スポーツ推進室はどんなことをテーマにされていますか?
常盤:テーマは「Fujitsu Sportsの力で、社員・地域・ファンの共感を生み、 社会にポジティブな変化をもたらす」です。内部の社員がFujitsu Sportsについてどんな活用をしているかというと、まずは社員同士のコミュニケーションに役立っています。大きな試合がある時は会議室に集まり、お酒を飲みながらパブリックビューイングすることもありますね。
ほかにも、たとえばバスケットボールが好きなクライアントがいれば、女子バスケットの試合に招待することも。富士通は全国各地にあるので、自治体のマラソン大会のゲスト選手として陸上部のOBをゲストランナーで派遣することも可能です。富士通のスポーツチームが培ってきたコーチングやチームビルディングのノウハウについて、社内外で講演することもありますね。
“みんなが過ごしやすい”に向けて活動する
――企業スポーツ推進室では地域の方々に向けた活動をされていると聞きましたが、具体的にどんな取り組みなのでしょうか?
白鳥:まず一つ目にご紹介したいのが、感覚過敏の子どもでも観戦できる「センサリールーム」を試合会場に設置する取り組みです。感覚過敏とは、発達障がいに伴う特性のひとつで、光、音、匂い、触覚、味覚などの感覚に対して普通以上に敏感に反応してしまうことです。もともとスタジアムや競技場にセンサリールームはなく、そういった方に向けて、VIPルームを遮音したり光を防ぐことでセンサリールームへと改修しました。
白鳥:きっかけは、2017年に川崎市でおこなわれた発達障害をテーマにした「心のバリアフリー・シンポジウム」でした。この取り組みは我々だけでなくANAさんや川崎市、川崎フロンターレなどさまざまな企業の方と協力し、実現したものです。企業スポーツ推進室単独では2022年から実施し、アメフトでは7回、女子バスケットも7回ほど実施していて、 これまで68家族193名の方をご招待しています。
武藤:アメリカやイギリスには公共施設にセンサーリールームがありますが、日本で注目されはじめたのは2017年頃からと言われています。 最近の競技場は設計の段階からセンサリールームを設けるようになってきているそうです。
白鳥:最初はまったく知識がない状態からだったので、そもそもセンサリールームがどういうもので、感覚過敏の方にとってどんなふうに世界が見えているのか、また、発達障がいとはどのようなものなのか、そういったことから勉強しはじめました。
センサリールームは、簡単に言えば落ち着ける空間ですね。コス・インターナショナルさんという知見がある企業にお願いし、感覚過敏の子どもたちが落ち着くことができる玩具などをVIPルームに設置しています。硬さや柔らかさ、押し具合などの感覚がさまざまな玩具が置いてあるので、触ることで落ち着いて観戦できる子がいたり、小さなテントのような空間が狭くて落ち着くという子もいたりと、本当にさまざまです。
――実際に使用された方からはどんな反響がありましたか?
白鳥:小学生のお子さんとそのご家族を招待しているのですが、保護者の方からは「一生叶わないと思って諦めていた、子どもとのスポーツ観戦をすることができた」という、感謝の言葉をいただきました。そもそもお子さんたちがイベントに参加しづらいという悩みがあるので、貴重な経験になったという言葉が多かったです。
回を重ねるごとに応募数も大幅に増え、そういった悩みを抱えている方が多かったんだなと実感しています。最近はBリーグとも協力しはじめていて、今後も他団体や競技リーグと協力していきたいと考えています。
――それは大きな反響ですね。ほかにも車椅子の方に向けた「バリアフリーマップ」を制作されたと聞きましたが、こちらはどういった取り組みでしょうか?
武藤:センサリールームの設置と同じように、障がいの有無にかかわらずスポーツ観戦を楽しめる社会への実現を目指した取り組みです。競技会場から最寄りの駅までの道のりを、車椅子で通るという視点でまとめた地図を制作しました。
武藤:実際に障がいをお持ちの方やスポーツ関係者と一緒にその現地を歩いてみて、安全で通りやすいルートを示した地図をつくり、一般の方に配布しています。富士通はアメフトとバスケ、陸上のチームがあり、さらにサッカーのフロンターレとも連携しているので、その4チームとコラボレーションして5種類のマップをつくっています。
――どのようなきっかけで制作することになったのでしょうか?
武藤: 東京2020オリンピック前に複数の企業が集まり、パラリンピックのために何かできることはないかと相談しはじめたのがきっかけです。2017年、2018年頃にエレベーターの幅やスロープなどが定められて建築はバリアフリー化が進みましたが、公共空間はまだ行き届いていませんでした。オリンピックに向けて日本各地の自治体がバリアフリーに力を入れはじめたところで、我々企業としてもなにかできないかと取り組みはじめました。
例えば視覚障がいの方向けの点字ブロックは、車椅子で走ると走りにくく、どちらのニーズを優先すべきかということもあるのですが、自治体が車椅子移動に向けた整備を進めていたこともあり、まずはそこに着目しています。
車椅子を押したことはあっても、実際に公共空間で乗るという体験はなかなかないと思うんですね。障がいがある方とアスリートやフロンターレでサッカーを練習している子どもたちが、実際に車椅子に乗り、武蔵小杉駅からUvanceとどろきスタジアム by Fujitsuまで行ってみようという企画をしました。
武藤:実際に公道に出てみると、気を抜くと車道に転げていってしまったりと結構難しいんです。体験をすることにより、街中で車椅子の方を見かけた時に声を掛けたり手伝ったりという行動が生まれるきっかけになるのではと思っています。
――センサリールームもそうですが、障がいのある方たちのニーズは体験してみないとわからないものですよね。
武藤:そうですね。地図は川崎市内の小学校や公共施設に置いてあり、これまで5万6000部配布しました。車椅子が走りやすい道はベビーカーも走りやすいということで、子ども連れの方にも重宝されています。障がいの有無だけでなく、みんなにとって歩きやすい道という考え方のほうが、いまの時代らしいかなとは思います。 また、数年するとビルが建て変わったり歩道ができたりと変化があるので、継続的に更新していくようにしています。
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