ここ数年、コロナウイルスによるパンデミックに限らず世界では大きな変化があり、香港もいままさに時代のうねりの渦中にいる。
2023年10月20日から10月29日まで、東京・表参道にて開催された「DesignInspire In Motion 2023 Tokyo Exhibition」。香港のデザイン・アート・ファッションを紹介するショーケースイベントで、多くの人が香港の「いま」に触れようと足を運んだ。会期中は作品を出展した香港のアーティストの多くが来日し、実際に作品紹介をする機会も設けられた。
めまぐるしい変化のなかで、生み出された作品にクリエイターが込めた想い。そして彼らの目には日本のデザインはどのように映ったのか?アーティストインタビューを交えて、本イベントをレポートする。
現在進行形の香港デザインに触れる
2017年に香港ではじまった「DesignInspire In Motion」は、2023年にはじめて香港以外でも展示をおこなうこととなった。その行き先は、日本とアメリカ。2カ国では出展アーティストが異なる展示を実施する。
日本では「Design Through Heritage~デザインの源流を探る~」をテーマに、東洋と西洋の文化が融合した都市である香港のデザインシーンを紹介。アート、カルチャー、ファッションデザイン分野の個性豊かなクリエイターやアーティスト17組の作品が並んだ。
展示は大きく「Cityscape of Hong Kong(香港の街並み)」「(Re)Industrialisation(産業の再形成)」「Traditional and Future Crafts(伝統と未来の工芸)」の3つのチャプターに分かれており、香港文化の源流から生まれたアウトプットをそれぞれの切り口でたしなむことができた。
文化的背景を取り入れた作品を手がける香港のアーティスト
土地に宿るストーリーを紡ぎ出す|Anthony Ko(アンソニー・コー)
⾹港のアーティスト、空間デザイナーおよび建築家であるアンソニー・コーは、300年近い歴史を持ち、かつて廃墟となった鹽田梓(Yim Tin Tsai)島でのアートプロジェクト「Fragile World」を紹介。土地ごとに持つストーリーに着目し、現在の侘しさだけでない部分にも目を向けてもらうための取り組みをおこなっている。石川県の奥能登で開催されていた「奥能登芸術祭2023」にも作品を出展。
アンソニー・コー:田舎を離れて都会に集中する、都市への一極化の流れは止まりません。この作品を通して、この地と人々の歴史について感じてほしい。作品がある場所は、現在住民がかなり少なくなった過疎地域ですが、制作期間の1年間のうちにさまざまな交流をおこない、村の人たちの想いも取り込んだ建築になっています。
東京は香港と似ていて、活気と密度の高さを感じます。しかし、日本も田舎にいくとのどかでゆったりした空気が流れている。都市の活気と田舎の美しさ、どちらも美しいですね。
時間の過ごし方をデザインする|O&O Studio
香港の建築スタジオO&O Studioが出展していた「Siu Kai Fong」は一見、カラフルなカーペットに、古いものをリサイクルしたような椅子とテーブルが並ぶインテリア提案のように見える。しかしこの作品は、これらのアイテムがどのような背景でどこに設置されていたものなのかが肝となる。
エリック・チャン:プロジェクトのもともとのアイデアは、家具の再利用、そして機能的な家具を生み出すことでした。意外かもしれませんが、香港ではパブリックスペースはないに等しく、非常に高級な場所です。日本では座れる場所が公園や施設のフリースペースなどにありますが、香港は非常に狭いため、パブリックスペースが見つけにくいのです。
そういった背景から、古くなった椅子やテーブルをいかに豊かなものにするかを考えた上で、作品として手がけています。プロダクトそのものから、香港に住んでいる人々の物語を感じてほしいです。
伝統的な保存食を再考し、リデザインする|Kay Chan(ケイ・チャン)
世界中で、昔からあった食文化が急速になくなっていることに危機感を覚えていたというケイ・チャン。その危機を乗り越えるためのツールがデザインだと、彼女は言う。
ケイ・チャン:香港は食べ物がとてもユニークで、食品こそがアートだとも感じます。毎日違うものを口にするって、すごいことだと思いませんか。また、コミュニケーションツールとしても素晴らしく、国や出身地域が異なっていても、食べ物を分かち合えば互いの文化を繋げることができますよね。
香港は東洋と西洋の文化が混じり合っており、世界中の人々がいるので影響を受けやすい地域でもあり、それが香港のデザインに通ずる複雑性にも繋がっていると感じます。アーティストとして、わたし自身もまわりから多分に影響を受けてきました。
今回、塩魚にまつわるさまざまなデザインプロジェクトを並べていますが、そのうちの塩魚を使った新しいソースも、西洋で使われているソースと中華ソースを混ぜて塩魚と一緒にするという、香港らしい複雑性があります。
社会をケアする視点での消費を|Toby Crispy(トビー・クリスピー)
手元にある洋服をリデザインしてくれるサービス「Fashion Clinic by T」の創設者であり、編集者、デザイナーであるトビー・クリスピーは、「The Umbrella Dress」を出展。韓国の伝統的な織物技術であるポジャギのパッチワークと、⿅児島にある障害者支援センター「しょうぶ学園」の池⼭⿇智⼦による刺繍を合わせてつくられたアップサイクルのドレスです。
トビー・クリスピー:わたしの作品を通してお伝えしたい一番大事なことは、アップサイクルの無限大の可能性。どんな小さなものでもキレイなものに生まれ変わることができるんです。この作品は、スカート部分のベースにわたしが5年間使用していた傘を使用しています。また、国際交流プログラムをきっかけにうかがったしょうぶ学園との出会いが、この作品に繋がっています。
現在、ファストファッションが世界中に広がっていますが、サステナブルな視点で服を選び、着るという新たな動きも生まれています。服を選ぶ際に、社会をケアする視点も大切にしたい。物を大切にする・大切に使うという、日本に根付く「もったいない」精神にわたしはとてもインスピレーションを受けました。
「先代たちがどのようにしてここにきたのか思い出そう。彼らが教えてくれたスキルを再び学び直そう。そしてわたしたちは、それを次の世代にパスしなければならない。」というわたしのスローガンがあります。洋服のボタンを1個なくしてしまうと、服ごと捨ててしまう人が多くなってしまった。誰かの手によってできたものを大切にしていくことを、わたしの作品を通して伝えていきたいと思っています。
香港のデザイン・アート・ファッションのエッセンスを東京に運んでくれた「DesignInspire in Motion」。香港にとどまらず他の国でもおこなうことで、これから先の香港のデザインシーンにも新しい風が吹き込まれることでしょう。
今回大テーマとして掲げていた「Heritage(伝統)」に対する17組のアーティストの表現は、いまの香港だからこその作品が並んでいた。香港のニュークリエイターとの出会いが、これからどんな化学反応を起こすのか。伝統から、未来を見つめる10日間となった。
会期:2023年10月20日~10月29日
場所:RAND Omotesando(東京都渋谷区神宮前4-24-3)
https://japanese.hktdc.com/ja/promotion/DesignInspireinMotionPromotion?DCSext.dept=9&utm_source=display&utm_medium=ep_others&utm_content=sp_mkt&utm_campaign=2023_dim_tokyo&utm_id=9_10001841
取材・文:八木あゆみ 撮影:加藤雄太 編集:岩渕真理子(JDN)