JDNの創刊25周年を記念し、昨年秋に3回にわたって開催したトークイベント「デザインを 『つくる』『使う』『考える』」。JDNのタグラインである「つくる」「使う」「考える」を各回のテーマに据え、さまざまなジャンルで活躍するクリエイターのみなさんを招いてトークセッションをおこないました。
「考える」をテーマに、グラフィックデザイナーの上西祐理さん、小林一毅さん、脇田あすかさんの3名に登壇いただいた第3弾。トークイベント開催にあたって読者のみなさんから質問を募集したところ、配信時に答えきれないほどのたくさんの質問が届きました。
本記事では、トークイベントから漏れてしまった質問について、3名に追加インタビュー。10問10答形式でお届けします!今回が最終回、脇田あすかさんにお話を聞きました。
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https://www.japandesign.ne.jp/report/25th-talkevent-kangaeru/
大学3年生のときにアートブックフェアに出展したり、友達と一緒にグループ展をおこなったり、学外の活動をしていたほうだった気がします。私がいた藝大は、ほかの大学とくらべて課題が少なかったことが大きいかもしれません。もちろん学校の課題だけでも根を詰めてやれば時間が足りないと言えば足りませんが、比較的ゆるやかなスケジュールだったため学外の活動をいろいろやっていました。
あとは、藝大は細かい専攻が分かれていなかったため、椅子をつくるなどいろんな分野の課題があり、その中で自分はグラフィックの作品をもっとつくりたかったので、その気持ちを自主制作で発散していた感じです。
InstagramやTwitterなど、SNSで情報収集することが多いです。あとはいろいろなお店に行った際、いいなと思った商品を誰がデザインしたのかちゃんとチェックするようにしています。
収集癖はありませんが、本は買いがちですね。もちろん中身も見て買いますが、装丁や綴じ方がいいなと思って買ったりします。自宅やオフィスには大好きな本が積み重なっています。
「テーマから考えてはじめる」ことと、「こういうものをつくってみたい」からはじめることの2パターンがあって、テーマを決めてやるときは、自分が日常的に考えていることやパッと思いついたことなど、そのときに一番興味のあるものをテーマに据えることが多いです。
その一方で、「こういうものをつくってみたい」からスタートするときは、後々「これはこういうテーマにしよう」と決めたりもします。自主制作だから、あまりガチガチにこのテーマは良い悪いとかで悩むことはないかもしれません。もしテーマを絞れない場合は、ひとまず思いついたものを全部やってみて、うまくいったものに絞るのもありかなって思います。
「感覚的なデザインだけど言いたいことが伝わる」と言っていただけたことが何度かあります。私自身はあまり感覚派じゃないと思っているんですが、人から見ると完全に感覚派だと言われたりして……。
私はデザインする上で「伝わるようにつくる」ということに重きを置いていて、ビジュアルコミュニケーションとしてのデザインを損なわないように注意しています。ちゃんと伝わるけど感覚的だったり自由につくっているように見えているのなら、それはいいバランスがとれているものができたんだろうなと思います。
コズフィッシュにいたときに祖父江慎さんに、「脇田さんはレイアウトの感覚や自由さが良くて、そこは人があまり教えられるものじゃないから伸ばしてけるといいね」と、言っていただいたことがあるのですが、反対に「自由すぎて散らかってるから、もうちょっとこう考えようか」みたいなこともありました(笑)。
自分が得意だと思ったことはありませんが、わりとその場でアイデアを出すほうかもしれません。でもこれは単純にタイプの違いなので、できない人は別にその場で出さなくていいと思います。すぐアイデアが出るからいいというものでもないと思いますし。ただ、そういう打ち合わせやアイデア出しの場でちゃんと話を聞き、感じたことは話しておいたほうがいいなと思っています。アイデアというほどでもないけれど、雑談やその場でしか出ない話もあるし、そこからヒントを得られる可能性はあると思います。
あと、ラフについては、私はもともと絵を描くのが好きでデザインの道に来たタイプなので、その場でささっと手書きで描くことは多いです。単純に絵があると相手に伝わりやすくて便利だなということと、きちんと目でお互いに確認することで相手と共通の認識が間に生まれるかなと。ただ、アイデア出しの話と同じで、これも人によって描けるタイプ/描けないタイプがあると思うのですが、得意でないからといってあまり尻込みをせず、とにかくどんどんトライしてみるのがいいのかなと思います。
クライアントからの指示で「ここの文字を大きくしてください」とだけ言われることがままあって……。そういうときは、なぜそう思ったのかを絶対に聞くようにしています。目立たせたいから大きくしてほしいのか、でも目立たせることが目的なら、色を変えたり太くしたり目立たせる方法はたくさんあり、そこを考えるのがデザイナーの仕事なのでちゃんと相手の意図を深堀りするようにしています。
クライアントの意図と自分の意図をちゃんとすり合わせて、ちょうどいいポイントを見つけていくのは大事だなといつも思います。
行き詰ったときはもうやらない、ですね。1回やめてもう寝てしまうとか、スケジュールが許すならしばらく時間を置くとか。それで、すっきりした頭と目でもう一度向き合うと、すんなり壁を越えられたりします。あと、持っている本や資料をたくさん見る時間にするのも大事かなあと。
煮詰まってくると自分がこれまでつくったものや手癖に寄っていってしまうので、そこを1回パッとリセットするために、自分が好きなものやいいと思うデザインを見てから再度確認すると、「ここがよくないかも」など、新鮮な目で見れることが多いです。
自分がほしいと思うものやいいと思うものをつくるように心がける、ですかね。誰かのために頑張ることがモチベーションになる人のほうが多いかもしれませんが、私はどちらかというと自分のために頑張ると思ったほうがモチベーションが上がるので、自分が素敵だなと感じたり、ほしいと思えるものになるように、心がけています。
たとえば、前職や最近もキャラクターもののお仕事に多く携わらせていただいていますが、実はもともとキャラクターものにはあまり興味がなかったし、すごく乗り気だったわけではないんです。でも、そんな自分のように、普段あんまり手に取らないような人でもほしいと思えるものにするにはどうしたらよいのかとか、考え方や見え方を変えていったら、興味がなかったはずなのにすごく魅力的で、楽しく充実した仕事になっていきました。
仕事としての魅力という意味では、デザイナーはすごくたくさんの人と関われる仕事で、衣食住、娯楽、社会的な問題などあらゆる文化とご一緒できるのがいいなと思っています。意外とそういう職業は少なく、毎回いろいろなジャンルの話をその道のプロから聞けるし、それをデザインに落とし込んでいくのはすごくおもしろいなと感じます。
あとは、アートディレクターという仕事は、全部を俯瞰して見ることができるのがいいなと思っています。たとえば展覧会は、究極にシンプルにいえば、絵を飾れば成り立ちますが、そこにデザイナーが入るときはそれ以上のものを求められていて、展覧会のタイトルやキャプションの入れ方、さまざまな要素の並べ方、色、素材……あらゆる細かい仕様によって展覧会全体の印象が変わってきます。
本についても作家さん自身が刷ったZINEなどがありますが、デザイナーが入ると、「こういう紙が似合う」「印刷にはこだわろう」といったような目線が入り、見せ方が変わってきます。どちらもデザイナーがいなくても成立しますが、デザイナーが入ることで、本や展示など対象の魅力をさらに増幅させ、より遠くまで多くの人に伝えられるような気がします。好きな作家さんや好きな作品など、よりよい形で見せるにはどうすればいいか?ということを考えるのがすごく好きですね。
夢というよりもう少し現実的な話ですが、この間のトークショーで上西さんや小林さんとお話ししてから、この先どうやっていくといいのか考える時間が増えたんです。お二人ともJAGDA新人賞を受賞していて、賞をとるってどういうことなんだろう?ということや、3人とも独立しているけどいろいろな道があるなとか、しばらく考えました。
でも結局、自分のやりたいことで自分が心からいいなと思えるものをたくさんつくり、それをクライアントや受け手に喜んでもらえて、なおかつちゃんとお金が支払われ、ある程度時間の余裕を持てたり、そういう、自分のデザインと、自分自身がないがしろにされないような環境が最低限あれば、けっこう幸せなんだろうなと思ったんです。
でもその状況がすべてそろっている状態は意外と少なくて、何かがうまく行っていないことが、まだまだあるなぁと。その幸せの基準をなるべく満たせるように働いて、日々を過ごしていくことをいったんの目標にしていきたいなと思います。夢じゃなくて目標になってしまいましたね。
取材・編集:石田織座(JDN)