デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。「教育とデザイン」をテーマに、PARTYのクリエイティブディレクター兼CEOの伊藤直樹さんと、UMA/design farm代表の原田祐馬さんのお二人をゲストに迎えた第8回目の様子をお伝えするレポートの後編では、 いよいよ今回のテーマ「教育とデザイン」について、3人が語り合ったトークセッションの内容をお届けします。
レポート前編:https://www.japandesign.ne.jp/report/minnadecreativenight8-1/
レポート中編:https://www.japandesign.ne.jp/report/minnadecreativenight8-2/
領域をまたいだ働き方のルーツ
西澤:それではクロストークに入っていきたいと思います。まずはみなさんに聞きたいなと思うんですが、僕も含めて3人とも、デザイン業界の中でもそこまで古典的な仕事の仕方ではない気がするんですよ。それぞれ、いろんなものを掛け合わせながら新しいジャンルの働き方を模索しているのかなと思っていて。なので、みなさんがいまの道に入っていくきっかけとなった学びのようなものがあれば教えていただきたいなと思います。
西澤:僕からお話しすると、僕はブランディングデザインの会社をやっていますが、もともとブランディングデザインっていうジャンルはなかったので、自分が言い出しっぺとしてやってみようと思ったんですね。僕はキャリアとしては京都工芸繊維大学で建築を学んだんですが、大学在籍時にデザイン経営というものが日本に入ってきて、デザイン経営工学科という、デザインと経営と工学をハイブリッドで学ぶ学科ができたので、大学院時代にそちらの分野について学びました。
キャリアパスとしては建築家の道を歩むということもあったんですけども、ちょっと道外れてみてもいいのかなと、一度メーカーでプロダクトデザイナーとして勤めてみてから、ブランディングデザインの専門会社をはじめました。なので、僕の場合は学校での学びがかなり自分のキャリアに影響を与えているなと思うんですが、おふたりはどうでしょう?
伊藤:僕、高校の時に東京の池袋の近くに引っ越してきて、部活ではバレーボールをやってたんですね。高校から始めたこともあって下手だったので、やることと言ったら球拾いだったんです。当時、学校の隣に三百人劇場っていう、マイナーな映画をやってる劇場があったんですが、1年生の時に100回以上ボールを取りに行くから、その頃は映画とか全然興味なかったんですけど、「ゴダールっていう映画監督がいるんだな」みたいな感じでどんどん詳しくなっていって、実際にその劇場に映画を観に行くようになったんです。
伊藤:そうしたら大学で映画をやりたくなって、いろいろ考えて、法学部の大学に進んで映画研究会に入ってたんです。ただ、だんだんと法律の勉強が嫌になって、文学部の哲学科に転部したいって、大学のアドバイザーに言いに行ったんですよ。そしたら、「そんなのやめろ」と。法律から哲学に行く人なんて、過去にいないぞと。
西澤:確かに、対極にある感じがします。
伊藤:なので僕、自分でそっちの授業に潜り込んでいたんですが、だんだん学問の境界ってどうでもいいなと思いはじめたんですね。映画研究会で映像を勉強して、哲学科の授業を受けているうちに、嫌だった法律もおもしろくなってきて、いろんなことを勉強するのっておもしろいなって。僕はそういった学び方をしていたんですが、当時の大学のシステムでは、領域横断的に学べる環境がなかったんです。なので、いまカリキュラムディレクターとして関わっている神山まるごと高専には、その考え方が表れていると思います。境界がなく、ごちゃ混ぜにしたような学校をつくりたいという気持ちは、その辺りから芽生えているんですよね。PARTYも、基本的にそういう考え方でやっています。
西澤:副業OKにしているのも、そういった考えからなんですね。
伊藤:PARTYでつくっているものも、成田空港からアプリまでやっているので訳が分かんない感じかもしれませんが、それは僕の思想でもあるんです。
西澤:なるほど。祐馬さん、どうですか?
原田:僕は、大学の後に行ったインターメディウム研究所という私塾みたいなところで学んだことがかなり重要で。そこはジャンルがミックスされた学びができる場所だったので、現代美術の中でもマネージメントに興味があるんだなとか、グラフィックデザインでもブランディングに興味があるんだとか、自分自身の興味が言語化されていくというか、フォーカスされていった感じはありましたね。大学で学んだ建築はどこ行ったみたいな感じですけど(笑)。
西澤:建築学科ですもんね。
原田:でも、建築って俯瞰の視点で学ぶことを教わるので、いろんなものを深く、つまみ食いもして学んでいた感じはありましたね。そこから徐々に、ひとつのことにとらわれなくてもいいかなと思いはじめて。その後、椿昇さんやヤノベケンジさんのアシスタントをやりはじめると、「やれるか?」って急に聞かれるんですよね。「や、やれます……!」って、やれなくても返事していたんですが(笑)、そうすることで自分の幅が広がっていったというのもありますね。
西澤:ちなみに、インターメディウム研究所はどんなカリキュラム体制だったんですか?
原田:週末の土日だけ授業があって、平日も含めて24時間使うことができる、素晴らしい学校だったんです。いまはもう、そういう場所ってないんですけど。当時、椿さんが「クラフトワーク」という、いまでいう「FabLab」のような部屋をつくろうと、同級生たちと一緒に設計を考えたりしてましたね。そこにずっと寝泊りして、鍋をつくって食べたり。
非認知能力を育むケーススタディ
西澤:神山まるごと高専のカリキュラムの図を見てると、「起業家精神」「デザイン」「テクノロジー」があって、その外側に「人と一緒につくる力」「隣人と生きる力」「ことを起こす力」があるのがおもしろいなと思って。カリキュラム単独で学ぶより、人間的な知恵や生きる力をどう学ぶのかが表れていますよね。
高専なので、その年代に教えるからこそこういったプログラムされているのかなと思うんですけども、このカリキュラムの全体設計はどのように考えはじめたんですか?
伊藤:「ものをつくる力」というのは、もともとSansanの寺田親弘さんがデザインとテクノロジーを学ぶ学校をやりたいということをおっしゃっていたことがきっかけになっています。僕が日々痛感していたのは、いわゆる通信簿に「国語5」「英語2」といった数字がつけられて、その右側に「クラスでは積極的に発言しています」「いの一番に掃除をしてくれていつもありがとう」といった先生のコメントがついたりしますよね。僕はそういったことこそが数字よりも大事だなと思っているんですよ。
数字化・スコア化することを認知能力と呼ぶのに対して、こういったものを非認知能力と呼ぶらしいですね。課題をやってもらうことで「デザイン力4」といった数値を付けられると思うんですが、実際に仕事で重要なのは、クライアントに情熱を持ってつくったものの説明ができるかとか、逆に「つまらない」って言われたときの対応力とか、そういうことじゃないですか。それは人と一緒につくる力だったり、近くにいる人とどんな過ごし方をするのかとか、そういう能力で。なので、それらの力を何となく身につけるんじゃなくて、学校のカリキュラムとしてちゃんと学ぼうと考えたんです。
西澤:たまたまいまうちは採用面接の真っ最中で、一次面接をやったりしているんですけど、ポートフォリオ審査やスキルチェックを通してスタッフたちがスコアリングしているんですが、最後に重要視することって、スタッフが一緒に働きたいと思うかどうかなんですよね。結局、スキルは後からでもいくらでも伸びますけど、一緒に働きたいかどうかみたいなことは、ファーストインプレッションがとても大事じゃないですか。そこが学べるのはすごいと思います。
伊藤:ものの本によると、非認知能力は早い段階なら早いほどいいらしいです。たとえば、幼稚園とかで情操教育をやっているところも最近あると思いますが、英語や国語を教えることよりも、人とどう接せられるかや、何に興味持つかなど、そういうことを育む幼児教育があるんですよね。会社に入って10年とか過ぎた年齢だと、その人の性格って基本的に変わんないですよね。
西澤:変わんないですね。
伊藤:採用面接で見極めたいのはそこなんですけど、なかなかわからないでしょ。
西澤:わからないですよね。どうしたらいいんですか?
伊藤:最近ではリファラル採用といった知り合いを誘うような方法になってきてますよね、そのほうが確かだから。神山の学校では、僕らが必要としている人材を徹底的に教育したいと思っているんです。
西澤:どうやって教えるんですかね?
伊藤:たとえば、「こんな失敗があったときにどうするか」というふうに、失敗を提示するんです。
西澤:ケーススタディなんですね。それを若いうちからやるとおもしろいかも。
伊藤:そうそう。何かネガティブなことがあったときに、反発して起き上がる力のことをレジリエンスというんですが、それってケーススタディやシミュレーションで学んでいくんですね。「こんな嫌なことがありました、じゃあどうやって仲間で解決しますか?」など。そうやって、どうしたらへこたれずにやっていけるのかを教えていきますね。
西澤:それ大事ですね。うまくいかない時もあるってことを頭で理解していれば、本当にショックなことが起きても受け止められますよね。
伊藤:そうなんですよ。プレゼンって、3回やっても全然案が通らないことって普通にいっぱいあるじゃないですか。
原田:普通ですね。
西澤:はじめてコンペに出して落ちたりすると、なんで天才の俺が落ちるんだってなったりね(笑)。
伊藤:いまの教育では、下手すると「お前、プレゼン絶対通るから頑張れ」としか言わないんですよね。失敗を教えないといけないと思うんです。
それぞれのスタッフ教育
西澤:いまの話から少し展開して聞きたいんですが、祐馬さんのところはスタッフ教育とかどうされてるんですか?これだけ教育的なお仕事をされていると、スタッフ教育もちょっと違う仕組みを持っているのかなと思って。
原田:うちはそもそも、半分のスタッフがもともとゼミ生なんですよね。
西澤:え、さっきの話でいうとリファラル採用?
伊藤:マジ?すげえ。
原田:残りの半分ぐらいが、福井でやっていた「XSCHOOL」というプロジェクトに参加していた人たちで。
西澤:じゃあ、全員知ってたんですね。僕ら、面接をやってる時点でもう遅れを取ってる感じが……。
原田:なので、僕らも面接とかやるフェーズがいつか来るのかなと思いながら話を聞いていました。
西澤:社内教育はどういうふうにされているんですか?
原田:やってないですね。
西澤:やってない?
原田:社内教育みたいなことも、言ったことないかもしれないです。
西澤:もともと教育の場所で出会っているから、ゼミの延長みたいな感じですかね?
原田:そうですね。現場にどれだけ一緒に行くかっていうことが、すごく僕の中では重要なので。僕がどう立ち振る舞っているかとか、現場でどういう動きをしてるかなど、一緒に見てもらうというやり方をしてます。それが教育と呼べるのであればですけど。結構、古臭いかもしれないですね。
西澤:伊藤さんは、社内の教育はどういうふうにされているんですか?ちなみにいまスタッフは何人います?
伊藤:PARTYは契約スタイルがいっぱいあるので、社員は30数名なんですけど、それ以外の方も含めると50人弱ぐらい。
西澤:50人もいたら、教育のやり方は気になりますね。
伊藤:僕、会社ではあんまりビジョンとかそういったことは言わないんですよ。知らんぷりしてます。その人の成長をサポートするっていうのが一番なので、あんまりこうしろ、ああしろとかは言わないですね。
なので、僕はなにも言わない人みたいに見られがちだと思うんですけど、自分で考えて自分で動けるようになる人のほうが成長すると思うんです。会社の成長だけ考えたら、こうやれああやれって言った方が効率はいいはずなんですけど、その人の成長を考えたら、絶対にその人自身が気付いて、自分で動けるようになったほうがいいんで。
西澤:教育係的な人はいないんですか?少なくとも、入ってきてから何やっていいかわからない人がいるのかなと。
伊藤:うちは新入社員とかはいないんです。
西澤:なるほど。キャリア採用で。
伊藤:教育係みたいな人がいるとしたら、それはプロデューサーですね。プロデューサーがデザイナーとエンジニアに寄り添って一緒に問題を解決していく。そこに僕はあんまり介在しないようにしています。
原田:そうですよね。
伊藤:ただ、納品が迫ってきて「これはやばい」ってなったら出動します(笑)。
原田:「やばいんやな」っていうのがそれで分かる(笑)。
伊藤;そういうときありますよね?
原田:ありますあります、しょっちゅうあります(笑)。逆に僕は現場が好きすぎてつい行っちゃうので、もっとやってみたくなる……。現場で見つけられることっていっぱいあるなといつも思うので。サインデザインの仕事だと余計そうで、現場に何回も行くことで空間の理解が増してくるので。そのやり方をやめることもなさそうです。
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