クリエイターに聞く、「つくる」のこだわり―小野直紀×佐藤ねじ×辰野しず...

辰野しずか, 佐藤ねじ, 小野直紀, JDN創刊25周年,Webデザイン,グラフィックデザイン,プロダクトデザイン,メディアデザイン

JDNの創刊25周年を記念し、10月26日から3回にわたって開催したトークイベント「デザインを 『つくる』『使う』『考える』」。JDNのタグラインである「つくる」「使う」「考える」を各回のテーマに据え、さまざまなジャンルで活躍するクリエイターのみなさんを招いてトークセッションをおこないました。

「つくる」をテーマにした第1回目に登壇いただいたのは、かねてよりJDNに登場いただいてきた小野直紀さん、佐藤ねじさん、辰野しずかさんの3名です。トークは「つくる前」「つくる時」「つくる本質」という大きく3つのパートに分け、各人の企画やアイデアの発想法、ものづくりで大切にしていること、今後の展望まで盛りだくさんの内容でお話しいただきました。本記事では、トークイベントの模様をレポートします。

それぞれが活動する「つくる」という仕事

――これまでにもJDNでは多くご登場いただいているみなさまですが、まずは簡単に自己紹介からお願いします。

小野直紀さん(以下、小野):現在博報堂に所属しながら、YOY(ヨイ)、monom(モノム)、雑誌『広告』の出版という3つの活動をおこなっています。簡単に説明すると、YOYは空間や家具、照明のデザインを軸としたデザインスタジオで、おもに日本とヨーロッパをベースに活動しています。空間の見え方を変える照明や、絵画に座っているような体験ができる椅子などをつくっています。

小野直紀

小野直紀 クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー。2008年博報堂に入社。空間デザイナー、コピーライターを経てプロダクト開発に特化したクリエイティブチーム「monom(モノム)」を設立。社外では家具や照明、インテリアのデザインを行うデザインスタジオ「YOY(ヨイ)」を主宰。文化庁メディア芸術祭 優秀賞、グッドデザイン賞 グッドデザイン・ベスト100ほか受賞多数。2015年より武蔵野美術大学非常勤講師。2019年より博報堂が発行する雑誌『広告』の編集長を務める。

YOY

YOYの作品。左は壁の端がめくれ、奥から光が差し込む風景を生み出す照明「PEEL」。右はイスの絵が描かれたキャンバス型のイス「CANVAS」。壁に立てかけて座ることができる。

小野:monomは、博報堂の中で立ち上げたプロダクト開発チームです。スマホを操作してぬいぐるみを喋らせることができる「Pechat(ぺチャット)」というボタン型のスピーカーや、ロボットベンチャーと一緒に制作したクッション型のセラピーロボットなどが商品化されています。

『広告』は、「いいものをつくるとは何か」をテーマに博報堂が出版している雑誌で、僕が編集長を務めています。これまでに4冊出していて、例えば1冊目の「価値」という特集では、雑誌を1円で販売することで価値と価格の非対称性を訴えかけました。

(左)クッション型セラピーロボット「Qoobo」(右)小野さんが編集長になってからリニューアル1冊目の雑誌『広告』

佐藤ねじさん(以下、佐藤):僕は、企画とデザインをおこなうブルーパドルという会社の代表を務めています。もともとデジタル系のデザインがベースにあるので、アート兼クリエイティブディレクターとして活動しながら、何かを企画してPRするようなプランナー的な仕事もしています。ここ数年は企画性のある商品やWeb、店舗などをPRする仕事が多いですね。

佐藤ねじ

佐藤ねじ クリエイティブディレクター/プランナー。面白法人カヤックを経て、Blue Puddle inc.を設立。「ディスプレイモニタの多い喫茶店」「アルトタスカル」「不思議な宿」など。2016年10月に著書「超ノート術」を出版。おもな受賞歴に、文化庁メディア芸術祭・審査員推薦作品、Yahoo Creative Award グランプリ、グッドデザイン賞BEST100、TDC賞など。

佐藤:企業のPRでいうと、最近手がけたのは「約束のよなよなエール」という、10年後と20年後に発売されるビールのPRです。商業施設の仕事だと、大阪にある「ボードゲームホテル」の企画からコンテンツ制作、PRなどを担当しました。僕自身ボードゲームが好きで、ホテル中をゲーム仕掛けにするという新しい体験型のホテルをつくりました。あとは子どもに関連した仕事も多く、育児の一部分を担うという意味で、「アルトタスカル」という子ども服のブランドを昨年立ち上げました。

(左)約束のよなよなエール(右)ボードゲームホテル

アルトタスカル

子育てをする親世代の声を反映した、“あると助かる”こども服をつくるブランド「アルトタスカル」

辰野しずかさん(以下、辰野):私はShizuka Tatsuno Studioというスタジオの代表を務めながら、クリエイティブディレクター兼デザイナーとして仕事をしています。生活雑貨や家具、ファッション小物などプロダクトを中心に手がけていて、なかでも日本の伝統工芸にまつわる仕事が多いですね。

私はイギリスの大学を出ていて、留学前に海外の人に日本の文化を伝えたいといろいろ勉強したのですが、渡英して改めて日本の文化や工芸の魅力に気付き、そういったものに貢献するデザインがしたいと思い、いまにいたります。

辰野しずか

辰野しずか クリエイティブディレクター/デザイナー。ロンドンのキングストン大学プロダクト&家具科を卒業。デザイン事務所を経て、2011年に独立。2017年より株式会社 Shizuka Tatsuno Studioを設立。家具、生活用品、ファッション小物のプロダクトデザインを中心に、企画からディレクション、ブランディングなど多様な活動を国内外でおこなう。2021年からは実験的なアート制作もスタート。

辰野:デザインの仕事ではクライアントワークが中心なのですが、たとえば、鹿児島県の薩摩切子をモチーフにそこから新たな価値を生み出したり、沖縄の伝統工芸に携わるゆいまーる沖縄という会社と一緒に、「Ryu Kyu Iro」という沖縄の自然をイメージするアクセサリーをつくったりしています。このほか、シンガポールと東京に拠点を持つHULS(ハルス)の「KORAI」という工芸ブランドにも携わっていて、“日本の涼”をテーマにしたプロダクトデザインも手がけています。昨年からはアート活動もスタートさせ、梅や桜など、草木染めの技法を活かした作品づくりなどもおこなっています。

Ryu Kyu Iro

沖縄の自然を優しく風でくるんだ、琉球ガラスのアクセサリー「Ryu Kyu Iro」

KORAI

“日本の涼”をテーマにしたブランド「KORAI」のプロダクト

共通するのは「絵」。いまの「つくる」につながる原点

――では本日の「つくる」というテーマに入っていきたいと思います。つくる前、つくる時、つくる本質という3つに分けてお話を伺いたいのですが、まずはつくる前のさらに前ということで、みなさんが子どもの頃に覚えているものづくりの原体験についてお聞かせください。

小野:うちは母子家庭で、母が働いている間、僕は保育園に預けられていました。歳の離れた姉はいましたが、ブロックなどで一人遊びをすることが多かったんですね。保育園でもお迎えが遅いほうで、「一人残って寂しくブロック遊びをしてた」みたいな話を母にすると、「そんなことないで。私が迎えに行ったら、もう来たん? て言うてたで」と言われて……もっと遊んでいたかったみたいですね(笑)。

そんなわけで母がレゴやブロックを与えてくれていたので、何かつくっては母や姉に見せて反応を楽しんでいた、みたいなことが原点としてあります。

――レゴが小野さんの原点なんですね。ねじさんは覚えていることはありますか?

佐藤:小学生の時って、漫画を描くのが上手いやつっているじゃないですか。僕の年代だとドラゴンボールの絵が描けるやつが偉かったんですが(笑)、僕は悟空の髪型がどうもうまく描けなくて。だから、「おにぎりくん」というオリジナルの漫画を描いていたんです。でも妹くらいにしか見せられなくて、妹の前でだけ威張っていました(笑)。

ただ、悟空は模写に過ぎず、オリジナルを描ける方がいいんだという価値観は子どもながらにありましたね。それはいまもベースにあって、世の中で「これがいいんだ」と言われるものに対しても、相対的に見て考えることは大事にしています。

辰野:絵の話でいうと、私は小学生の頃漫画を描くのがそれこそ得意な方で、10分の休み時間ごとに、クラスの子が「描いて」と自分の机の前に並んでいたんです。嬉しいから描くじゃないですか。そうすると喜んでもらえるから、もっと描けるようになりたいと思って練習するのですが、だんだんエスカレートして学校以外でも家にこもって絵を描いていました。そんなふうに、「誰かに喜んでほしいから上達したい」という経験が今の自分をつくっている気がします。

――辰野さんのエピソードは、いまの活動につながりそうな体験ですね。ちなみに小野さんも絵は描かれていたんですか?

小野:小学生の時は描いてましたね。一応クラスの中では絵が上手いポジションにいて、ちょっと褒められると調子にのって描いていたんですが、改めて見ると下手でした(笑)。

――みなさん共通して絵は描かれていたんですね。

アイデアや企画をより膨らませるために

――さまざまなお仕事に携わるみなさんのアイデアの発想についてのお話を伺いたいのですが、普段のリサーチ方法やアイデアのストック法など、何かありますか?

佐藤:昔からいろいろなパターンを試してきたんですが、いまはシンプルにターゲットのインサイトが何で、それに対してどういう解決策があるのかを考えていくのがおもしろいですね。

ゴール、ターゲット、インサイト、SNSという4つの項目をA4の紙に書いて、無数にある企画の中でどれがいいか、角度が高いのはどれかなど、すべての条件にハマる交差点を探すんです。アイデアの発想法というより、その後の企画の話に近いかもしれないですね。

佐藤ねじさん率いるブルーパドルが考案した、いるときだけ遊べるカードゲーム「0歳ボドゲ」と「1~6歳ボドゲ」。ゆっくりボードゲームで遊べない人向けに、逆に小さな子どもがいることで遊べるゲーム。

――小野さんはいかがですか?

小野:発想法のテクニックもなくはないんですが、夜寝て早く起きるとか、電車でどこか行くとか結構普通です(笑)。でも常々考えているのは、YOY、monom、雑誌とつくっているものは違っても、それぞれ楽しいと思えていて、そのためにやっているのは「つくる環境をつくる」ということです。

YOYは博報堂に入って4年目にはじめたのですが、当時博報堂の中で「デザイン=ソリューションだ」とよく言われていて、すごく反発したんです。もちろん理解はできますが、デザインが課題解決の中だけでおさまるわけがないと思っていたので。そこで、「解決しないものづくり」をやろうと、家電メーカーでプロダクトデザインをやっていた相方とはじめたのがYOYでした。YOYは自分が抱えていた不満から始まっているのですが、そういう内発的な動機で自分たちがおもしろいと思えるものだけをつくろうとやっていると、今度は反対に何かを解決したり、広く社会に向けてものをつくりたいと思いはじめたりするんですよね。

ちょうどその時博報堂の中ではコピーライターもやっていて、YOYとして独立することも考えました。でも、広告という情報のデザインとプロダクトデザインを組み合わせて、普通はものをつくらない広告会社がものづくりをするのもいいんじゃないかと考えたんです。それではじめたのがmonomでした。

monomが手がけた、ぬいぐるみをおしゃべりにするボタン型スピーカー「Pechat」。ぬいぐるみにPechatをつけてスマホを操作することで、ぬいぐるみがおしゃべりしているように感じさせることができる。

小野:それも“つくる環境づくり”だったのかなと思います。雑誌『広告』も同じで、そもそも広告会社が雑誌を出版すること自体変わった環境ですし、僕が編集長になってからは、年間4冊出していたのを1冊にして、4冊分の予算を1冊にかけられるようにしました。これも環境づくりです。考えてみると、本来ものがつくられる状況とは違う状況が出発点になっていて、そういったところから自分がおもしろいと感じるものが生まれているんだと改めて思ったりしています。

佐藤:環境づくりは僕もかなり意識的にやっているので、よくわかります。どういう場をつくるかで大きな影響が出ますよね。

小野:どういうものをつくるかにもよりますが、既存のやり方に則ってしっかりつくるという方法もある中で、僕の場合は比較的バグっぽいことがやりたいので、バグっぽいことと継続して積み上げられたものが重なる部分を探っている感じですね。

――バグっぽい部分というのはねじさんも通じるところがありそうですね。辰野さんはいかがですか?

辰野:私の場合は、感動することを重視しています。依頼を受けたものづくりの現場に足を運んだり、それにまつわるものをリサーチしたりする中で、特に伝えたいと思える部分を見つけて、できるだけシンプルな形で可視化したいと思っています。

たとえば「Ryu Kyu Iro」というアクセサリーは、沖縄のものづくりとアップサイクルをキーワードに何かつくりたいという依頼からはじまりました。そこで、現地の方に沖縄らしい場所をいろいろ案内してほしいとお願いし、「御嶽(うたき)」という自然の中に祖先神を祀ってお祈りする場所があることを知ったんです。沖縄の方は、東京では考えられないくらい自然と密接につながっています。そこから沖縄の自然をテーマに、工芸品の琉球ガラスと掛け合わせて何かできないかと考えたのが「Ryu Kyu Iro」でした。琉球ガラスにも、昔から空き瓶などを再利用してきた歴史があるんです。

ブランドビジュアルからも、プロダクトからも沖縄の豊かな自然を感じ取れる「Ryu Kyu Iro」。

辰野:また、私のアート作品に梅の色を抽出した飴のオブジェがあるのですが、これももうすぐ切られてしまう1本の梅の木に出合って、それを取り巻く環境や人々に心を動かされてできた作品です。

もちろんすべてではありませんが、私の場合はそんなふうに自分をどう感動させるかが重要なポイントですね。そのため、体調を整えて現場に行くことも大切にしています。いい感動を得るには健康でなければいけないという持論があるので、ふらふらの状態では行かないようにしています。逆に、このやり方に合わない仕事はあまりやっていないかもしれません。

佐藤:合わない仕事はやらないというのは、僕も大事だと思います。

辰野:そうですね。自分向きではないかもと感じたら、無理はしすぎないようにしています。

佐藤:それも環境づくりとつながるかもしれないですね。僕は降りる勇気を持てるようになってから、自分に合うものをやっていけば世の中は自然と回るんじゃないかと思えるようになりました。

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