個性と品格を伴う次世代のデザイナーを育成する―Shed Inc.(前編...

Shed,グラフィックデザイン,ブランディング,Webデザイン

2006年に制作会社として誕生してから15年以上、クライアントからのさまざまな要求にデザインの力で最大限に応える、問題解決型のデザインファーム「Shed Inc.(以下、Shed)」。Webサイトの企画制作やグラフィックデザインはもちろん、昨今ではデザインコンサルティング領域にも足を踏み入れた。デザインにまつわることでお客様が求めることならと幅広くチャレンジをおこない、進化し続けている。

Shedが掲げる企業理念は「個性と品格で社会を彩る」。その理念には、自分たちが生み出す価値としての意味を込めつつ、「社員ひとりひとりにも個性と品格を備えた一流の人間になってほしい」という願いが込められている。そんなShedはデザイナーとエンジニアを中心に構成された、10人ほどの少数精鋭の組織だ。20代の若きクリエイターが多いからこそ、未来を見据えた社員教育にも力を入れている。

2回に分けてお届けする本企画の前編では、時代に合わせ変化させてきた教育体制で組織力を底上げするShedの近年の変化について、代表取締役の橘友希さんにお話をうかがった。

「ものをつくる」だけではなく、その先を見据える時代へ

――まずはShedの強みや、会社としての個性についてお話いただけますでしょうか?

橘友希さん(以下、橘):これまでは制作会社としてクオリティの高いものを生み出すことを一番に考えてものづくりを行ってきましたが、2019年頃から徐々に方針転換をし、デザインのコンサルティングも行うようになりました。15年以上ものづくりをやってきた経験があるから成り立つもので、現在はこのものづくりとデザインコンサルの2軸でビジネスの問題解決を行っており、Shedの強みになっています。

橘友希 Shed Inc.代表取締役/デザインコンサルタント/アートディレクター。都内の制作会社でデザインとプログラミングに従事した後に独立。2006年に株式会社Shed設立。現在はブランディングを中心としたコンサルティングやディレクションに注力しつつ、若手の育成に務めている。

――方針転換したという理由について、詳しく教えてください。

橘:「素敵なビジュアルをつくってください」というような、単発で終わる内容ではないフェーズまでコミットすることが多くなってきたんです。これまでは「つくって終わり」が多く、言い方を選ばずに言えば「スクラップアンドビルド」を繰り返すような毎日でした。でも今は、一度つくったものを長い期間、広い範囲で継続的に価値を生み出すようにすることが、ビジネスにおいては重要なテーマになってきています。

そのため、具体的な制作物はもちろんのこと、作り方やその考え方にいたるまで、デザインを再現性のあるかたちで顧客に提供し、その後の展開までも見守ることが多くなりました。ひとことでいえば、「デザイン資産を残す」というイメージです。

Shed Inc.が手がける領域の一例

――企業理念もここ最近つくられたとお聞きしました。「個性と品格で社会を彩る」という理念に込められた想いも教えてください。

橘:実は2019年までは企業理念を特に定めていなかったのですが、デザインの会社でも組織として成長していくためには必要だと感じはじめ、新たに考えました。現代は情報化社会で、ひとつのものごとの捉え方も人それぞれだし価値観も多様ですよね。そういった正解が無数に存在するなかで、「最も大事なことは何か?」と考えたときに、「個性と品格」というキーワードに行き着いたんです。

「個性」は自分らしさやそのものらしさのことで、それらを表現するためにものづくりをしていきますが、そこからさらに他人や社会に受け入れられるかどうかの価値基準としては「品があるかどうか」かなと。「個性」と「品格」があること。このふたつが、Shedだからこそ込められる想いかなと思いました。

――どちらもなかなかすぐに身に付けられるものではないですよね。会社として理念をどう浸透させていますか?

橘:おっしゃるように、顧客に対しても「では個性と品格を今からつくります」といって簡単に生み出せるものではなく、これまでの歴史や複雑に絡み合った文脈の中で最終的に醸し出されるものだと思っています。私たちも、デザインを仕事にしている人間として、「個性」は前提としてみんなが意識しやすいものですが、「品格」はなかなか難しいので、理念として言葉にしたことで日頃から意識してもらうことと、日々社内でのものごとの良し悪しを決めるときの判断軸、行動指針としても使用しています。

なのでこの企業理念は、「顧客に対して個性と品格を価値として提供する」ということと、「私たちが社会にとって必要な人間となれるように個性と品格を身につけていく」という両方の意味を込めているんです。

広い視野で物事を捉えられるデザイナーになることが大事

――最近の仕事の事例を教えてください。

橘:事例のひとつに、株式会社リコーがつくる次世代の会議室空間「RICOH PRISM」があります。3年前のプロジェクト始動の頃から参加させていただいているのですが、コンセプトメイキングから空間内で操作するアプリケーションの開発、ロゴやサイン、Webサイトにいたるまで、ほぼすべての領域のデザインのお手伝いをしています。

次世代の会議室空間「RICOH PRISM」

橘:どこにもない新しい空間をつくるという実験的な試みで、かつ多くのチームが参加するプロジェクトのため難易度も高かったのですが、我々の長年の経験を活かした角度の高いプロトタイピングや徹底したユーザー視点の体験設計、そして抽象的なイメージの具体化などで、今のプロジェクトの成功につながる貢献ができたのではないかと思っています。

デザインもただ単につくっていくのではなく、今後の発展の余地も残しながら、チームで拡張していけるような世界観やルールを設計することを意識しました。プロジェクトの全体から画面の1ピクセルまで、幅広い視野で見ることができるからこそ、プロジェクトのフェーズに合わせてこれだけの長い期間に価値を提供し続けられていると思っています。

Shedが手がけた、「RICOH PRISM」のロゴやWebサイトなどのデザイン

――紙やWebにとどまらず幅広くお仕事をされていらっしゃいますが、若手スタッフにもどんどんそういった仕事を担当してもらっているのでしょうか?

橘:若いスタッフが担当する案件が特定のメディアや業界だけになると、身に付けられるデザインのスキルや知見も限定されてしまうので、いろいろな経験ができるようにしています。映画のグラフィックやパッケージのデザイン、本の装丁などもそれぞれの奥深さがありますので、さまざまな種類の仕事に挑戦してもらっています。

理由としては、Shedが目指しているのは「うちはグラフィックデザイン会社です」「うちはWebサイト制作会社です」ということではないからです。実現したいのは「お客様の課題を解決する」ことで、その課題を解決するための手段として、自分たちが対応できるメディアを可能な限り限定しないという考え方です。だからこそ、もっとも効果を発揮するメディアを提案できたり、メディアを横断した一貫した制作を行うことができるんです。

最近ではひとつのメディアを極めたいというよりも、いろいろなデザインをしたいという若い人が増えてきていますが、そういったことも相まって、日々全員がさまざまなメディアで腕を磨いていけるようなサイクルを念頭に置いて仕事を割り振っています。とはいえ当人のスキルレベルもあるので、仕事の割り振りは役員のほうで見極めるようにしています。

一方で、ブレストなどのアイデア発想は若いスタッフを含めた多くのメンバーでやるようにしています。経験が豊かな人だけでやると、デザインが最短ルートを辿りすぎることがあり、予定調和になることも否めません。そこに先入観が無い人が入ってくるとおもしろいアイデアが出てきたりする。ただ、それを具体化する能力が乏しいため、先輩が手伝いながらかたちにしていったりします。このようにチーム全体でカバーし合いながら、若いスタッフが打席に立つことを増やすようにしています。

情緒的価値と機能的価値の2軸を常に意識する

――20年近くデザイナーとして第一線を走られている橘さんが感じる、社会の変化はありますか?

橘:クオリティの高い作品やものづくりの感動が、人や社会に与えるインパクトがどんどん小さくなってきているなと感じています。その理由としては、多くの人の目に触れる作品の全体的な品質が上がってきており、受け手側がそのクオリティに慣れているのもあるかなと。プロを目指す若い世代にとっても、求められる水準がとても高くなり、ツールの進化やSNSの力があったとしても、参入が厳しい世界になってきていると感じます。

また私が若手だった頃のように、「素敵なCDジャケットに出会ったから、私もこういうグラフィックをつくるデザイナーになりたい!」とか「あの広告にとても心がゆさぶられたから、私も広告代理店に入りたい」など、将来の夢につながる大きな感動が少なくなってきている気がするんですよね。だから、「自分も手を動かすものづくりのプロになりたい」と思う人がデザインの業界を選ばなくなってきていることが、ここ数年で顕著に感じていることです。

――近年の依頼内容の変化や、デザインの役割の変化など感じることはありますか?

橘:制作だけを行うのではなく、コンサルティングをしながら顧客と並走するというビジネスモデルが確立されてきたのが昨今の変化です。以前は「何ページでいくら」といった、請負型の契約が一般的でした。でも今はデザインも「これによって解決した課題は何か、満たした要件は何か」という機能的価値に対して報酬をいただく、という考え方に変わり、それが定着してきたと感じています。

例として、SRE(Site Reliability Engineering:Googleが提唱・実践しているシステム管理とサービス運用の方法)を中心とした、インフラ領域のサービスを提供するスリーシェイクさんの事例があります。出会いは2018年頃で、最初は新しく立ち上げるサービスのロゴやランディングページの制作のご依頼でした。

そこからサービスをより効率的に立ち上げていくための仕組みとして「Elements Design」を開発しました。これはサービスの特性を火や水などの属性になぞらえて、それらをブランドデザインとして視覚化する仕組みなのですが、サービスのロゴもデザインの方法をレシピ化することで、すべてのブランドで品質を保ちながら統一感を出すことができるようにしました。

「Elements Design」を使うことで、スリーシェイクが手がけるサービスに統一感を持たせることに成功。

橘:その後、事業の成長とともに課題はビジョンや組織に関するものになりました。弊社は代表の吉田拓真さんと対話を重ね、今後のビジョンの視覚化やその社内浸透のサポートを実施。100名規模となった現在では、社内のブランドやマーケティングのメンバーと一緒に、長期的に価値を生み続けられるような確固たるブランドにするための検討を行っています。このように、私たちの提供するものは顧客のステージに合わせて変わってきています。

戦略コンサルとの違いとしては、その立ち位置が挙げられると思います。私たちは経営者やマネジメントクラスだけでなく、現場側の視点も持ち、同じ目線から客観的に事象を観察し、成果につながる具体的なアクションへとつなげていくことが特徴だと思っています。

――アウトプットに「機能的価値」が求められるようになったということでしょうか?

橘:そうです。いまShedとして強く意識しているのは機能的価値と情緒的価値を分けて考えることなんです。アウトプットが機能的価値の要件を満たすことを前提としつつ、その中でいかに情緒的価値を生み出すことができるか。常に機能的価値と情緒的価値を両輪で回すことを意識しています。我々はデザイン会社として、美しさの探求や人の心を動かすことから逃げずに向き合っていきたいと思っています。

9月1日に公開する後編では、Shed Inc.が力を入れるオンボーディングや社員のキャリアプラン設計などを中心にうかがいます!

Shed Inc.
https://www.shed.co.jp/

文:橋本裕子(Playce) 撮影:加藤雄太 取材・編集:石田織座(JDN)

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