クリエイターの仕事場:唯一無二の構図と色彩で見る人の心をつかむ。イラス...

一乗ひかる,アート,グラフィックデザイン

イラストレーターとして本格的に活動しはじめて約4年。「PARCO」や「NIKE」など、有名商業施設やそうそうたるブランドとの仕事をはじめ、雑誌の装画制作など多方面で活躍する一乗ひかるさん。そのカラフルでポップな色づかいとレトロな質感、独特の構図で描き出す作風は、老若男女を魅了します。

今回は最近のお仕事の紹介はもちろん、制作環境や手放せないツールなどから、一乗さんのオリジナリティあふれる作風の魅力や普段制作する上でのこだわりなどを探っていきました。

学生時代に気付いた、イラストへの可能性

――まずは、イラストレーターになるまでの経緯をうかがっていきたいと思います。一乗さんは東京藝術大学ご出身ですが、在学中や卒業制作ではどういった作品をつくっていたんですか?

卒業制作では、“内臓”をかわいらしいモチーフにした下着やロゴなどを制作しました。これを言うと「ヤバいやつ」と思われるかもしれませんが、内臓のフォルムや色が好きなんです(笑)。最初に何を見てそう思ったのかは覚えていませんが、昔の浮世絵にも内臓をゆるくかわいく描いたものなどがあって興味深いな〜と。

一乗ひかる イラストレーター。2015年東京芸術大学デザイン科卒業。イラスト、グラフィックデザインを中心に活動する。

浮世絵で描かれた内臓の絵。忠実な描写というよりはグラフィカルな表現が興味深い。

――なるほど(笑)。たしかに浮世絵で描かれた内臓はグラフィカルで素敵ですね。イラストはいつ頃から描きはじめたのでしょうか?

イラストに出会ったのは大学院生の時です。視覚伝達研究科というグラフィックデザイン中心の研究室に所属していたのですが、教授が私の描く絵を評価してくださって、あるプロジェクトでイラスト作品をつくることになったんです。その時に教授から版画っぽいテイストで表現してほしいと言われ、結果的にそれが今の作風にも影響しています。その出来事がきっかけとなり、イラストという自分の強みに気付きました。

――もともとイラストレーターを目指されていたわけではなく、そういった流れがあったのですね。ある意味転機ですね。

本当にそうでしたね。大学院卒業後はデザイン事務所に就職しましたが、自分の作品をつくれない期間がとても長くなってしまって……。だったら、そこに費やす時間を自分の得意分野を伸ばすことに集中したいと、イラストレーターとしてフリーランスで活動することを決めました。

独特の質感と、スニーカー好きが高じたユニークな構図

――網掛けのような独特の質感は一乗さんのイラストならではだと思いますが、今の作風にはどのようにたどりついたのでしょうか。

最初はもう少し網目が細かくて、本当に昔の絵本にあるようなテクスチャーだったんです。ただ、個展でシルクスクリーンの作品をつくる機会があったんですが、細かすぎる版だとシルクスクリーンではなかなか思い通りに表情が出ず、思い切って粗めにしてみたら意外とよかったんですよね。

――普段はどのように絵を描かれているんですか?

まず構図を決めて、下書きはペンで手描きをするか、iPadで描くことが多いですね。そのあとはほぼデジタルで、IllustratorとPhotoshopを使って描いています。

テクスチャーは、絵の具で描いたものをリソグラフやシルクスクリーンで刷って素材とし、それをスキャンして使っています。

網かけのような独特のテクスチャーと色合いをした、一乗さんのイラスト。

――下からのアングルなど遠近感がある構図もとても特徴的ですよね。

私がスニーカー好きなこともあり、もともとはスニーカーを目立たせるために描きはじめた構図なんです。ちょうど、個展の準備中に何気なく描いたものをSNSにアップしていたのですが、個展がはじまってみると「あのスニーカーの作風ではないんですね」とお客さんに言われて。「あ、やっぱりあっちの方がいいんだ!」と思って今の構図になっていきました。

――モチーフは女性が多い印象ですが、理由はあるのでしょうか?

そうですね、特に女性の脚のラインを描くのが好きなんです。たとえば予備校時代の講評の時間など、ひたすらまわりの人の脚ばかり描いていました(笑)。男性の脚よりも女性の脚の柔らかな曲線の方が好きなんだと思います。

最近手がけた仕事

――最近はどういったお仕事を手がけていますか?印象的だったものをいくつか教えてください。

一つは、横浜ビブレに今年の4月にオープンした「ナイキ バイ ヨコハマ(NIKE BY YOKOHAMA)」の店舗内装のグラフィックです。

横浜ビブレの外観のフラッグにも、一乗さんのイラストが使われています(期間限定)

NIKEのロゴがある店舗の壁面にも大きくイラストがデザインされました。

ビルの外観の壁面に設置されるフラッグや、1階の階段横の壁面、店舗内の壁、ラグ、スタッフさんのネームプレートなど一式を手がけさせていただきました。特にラグがすごくかわいい出来で気に入っています。

――今回はどのような経緯で依頼が来たのでしょうか?

きっかけは、昨年の12月に原宿で開催されたNIKEのイベントの時にイラストのお仕事をさせていただいたことです。その際にNIKEの方がイラストを気に入ってくれたようで、今回のお仕事につながりました。たくさんのアイテムを手がけることができ、とても楽しくお仕事させていただきました。

店内に敷かれた、一乗さんもお気に入りのラグ

もう一つ印象に残っているのは、昨年6月から7月にかけてギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で行われた展示「SPORTS GRAPHIC スポーツ・グラフィック」のお仕事です。パラリンピックの時に義足の陸上選手を描いた絵を自主制作したんですが、それを浅葉克己さんが見つけてくださったようで、メインビジュアルに絵を採用していただきました。

デザイン:浅葉克己 イラストレーション:一乗ひかる

運動というテーマはイラストレーターとして活動しはじめた当初から取り組んでいましたし、学生のころから足繁く通っていたgggさんでの展示のメインビジュアルとして使ってもらえ、とても嬉しかったです。

――お仕事を見ていると、スポーツをはじめ、お菓子ブランドやスキンケアブランドまで本当に多岐に渡りますね。

ジャンルには特にこだわりませんが、イラストの道に進みはじめたときからいくつか目標を立てていて、それが「商業施設」や「雑誌の表紙」「お菓子のパッケージ」「占い(12星座のイラストなど)」など叶いはじめているものもあり、全部達成できるよう頑張りたいです。

好きな香りや色に囲まれた作業環境

――お仕事の作業環境について伺いたいのですが、普段はどこでお仕事をされていますか?

普段は自宅であっちこっちウロウロしながら、場所や見える景色を変えつつ作業することがほとんどですが、まわりに見えても差し支えない仕事のときは、カフェに行って作業することもあります。仕事をしているとどうしても気分をリフレッシュさせたいので、一つの場所に腰を据えて作業ができないんです。2〜3日経つと飽きてしまって、場所を変えたりしますね。静かな空間よりも、少しガヤガヤしていて雑音のある空間の方が集中できます。

だから自宅で作業するときも音楽をかけたり、「セックス・アンド・ザ・シティ」や「フレンズ」など、シリアスじゃないコメディ系の海外ドラマをBGMがわりに流していることが多いです。海外ドラマは好きなものだと20周くらいリピートしていると思います。だいたい会話や流れが頭に入っていて、「ああ、この話ね」って(笑)。新しいものを流すとストーリーに気を取られてしまうので、話の展開が見えているものをなんとなく聞いているのが好きですね。

――ちなみに音楽はどんなジャンルのものを聴かれるんですか?

作業をしながらよくかけているのは、国内のヒップホップが多いです。OZworldとかMuKuRo、Awichなど、なぜか全部沖縄出身のラッパーの方々なんですが、不思議と仕事に集中できます。

好きな香りや色に囲まれた作業環境

――椅子や机など、インテリアで何かこだわっていることはありますか?

インテリアはバラバラですね。あまり意識していませんが、そこも同じものでそろえると飽きてしまうので無意識に避けているのかもしれません(笑)。カフェに行っても席によって椅子がバラバラだったりするので、それもまた日によって気分を変えられていいなと思います。

しいてこだわっているものとすればお香ですね。お香立ても作品としてつくっていたりするのですが、お香はよく焚いています。香りはオンラインではわからないので、自分でお店に行って香りを確かめて、気に入ったものを買うようにしています。仕事中もお香は焚きますが、朝起きて、朝食を食べながらよい香りに包まれるのが好きですね。

一乗さんのお部屋にあるお香。さまざまな種類のものが置かれています。

――一乗さんの作品はピンクの使い方が印象的だなと感じていますが、お部屋にもちらほらピンクの小物や作品が並んでいますね。

もともとピンク色は好きなのですが、あまりピンク一色になりすぎないよう、ほんのりピンクがかったものを置いたりしています。

ただ、ひとくちにピンクといっても、マゼンタだけのものや少しイエローが混ざった感じの色味など幅があるので、その時々で自分のなかのブームのピンクがあって。特に古い絵本は肌がピンク色に描かれていることも多くて、それも昔の絵本が好きな理由の一つです。海外だと内臓もピンクや紫で描かれていることが多くて、カラフルでかわいいんです。

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