UPI 表参道
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店に入ったはずが、森の中に迷い込んでしまったのかと思ってしまうようなこの空間は、北欧やアイルランド、北米をはじめとする海外アウトドアブランドの正規輸入代理店「UPI」の旗艦店です。
設計を担当したのは、happenstance collectiveの山﨑智貴さんとハビエール・ビヤール・ルイズさん。本物の自然を設えた空間のコンセプトや特徴についてコメントをいただきました。
■背景
東京・表参道の中心地に位置するアウトドアショップの設計にあたり、コロナ渦で特に顕著となった2つの現象について改めて考えました。ひとつは、人々の自然とのつながりに対する欲求が急激に増したこと、そしてふたつめは、物理的なショッピング体験にとって代わろうとしているネットショッピングの隆盛です。
過去20年間、多くのショッピング空間は、インテリア空間そのもののあふれるようなエンターテインメント性と装飾に魅了されながらショッピングを楽しむ場として提示されてきました。しかし、ネットショッピング空間においても、ネット特有のエンターテインメント性や装飾により、これまでの実空間と同程度の場として提示することが可能になってきています。
利便性で大きなアドバンテージがあるネットショッピング空間に対して、これからのショッピング空間は、表面的なエンターテインメント性や装飾で魅了するだけではなく、実体験によってのみ得られる学びや、深い理解を含んだ経験、楽しさをともなうショッピング体験がより重要な要素となってきています。
■コンセプト
「UPI 表参道」は、北欧を中心に厳選されたアウトドアブランドの正規輸入代理店として展開する、UPIのブランドコンセプトを表現する初の旗艦店です。同店は、スタッフによるデモンストレーションやワークショップを通して商品を理解し、試すことをコンテンツとした、一種の「ジオラマ」のように考えられています。
店内は、外にいるかのような本物の自然を設えた「自然エリア」と、自然を望む建物の内部である「展示エリア」に分けられており、それぞれを散策するように歩き回ることができます。

自然エリア

展示エリア
2つのエリアを分ける外部から続く斜めの軸線は、意図的に既存構造体のジオメトリーからずらされており、既存建物の外部と内部の境界を上書きするほどの視覚的かつ感覚的な強さとなっています。
■手法、特徴
「自然エリア」は人の手の痕跡を可能な限り感じさせないよう、小川のせせらぎが聞こえる循環する自然の森として、庭師の山口陽介さん(西海園芸)の手で設えられました。照明デザイナーの山口晋司さん(On&Off)が設計した、一日の時間によって調光調色がプログラムされたLED照明システムで木々の光合成を促し、サーキュレーターと換気システムで自然に近い規則性のない空気の動きをつくり出しています。

また、木、石、川や地形に敬意をこめて、手を加えずアウトドアを楽しむように、既存の柱や壁、梁、天井を建物の歴史が刻まれた「自然」な状態のままとすることで、都市の中での自然のひとつの形としてそのあり様を表現しています。
この一連の設えは商品の理解を深めるために自然のジオラマを見せるためだけではなく、UPI自身が木々や小川などのメンテナンスを長期的かつ絶え間なく行うことで、常に変化する自然に関わりつながるという意味を、より深く理解することへの挑戦のための設えでもあります。

建物の歴史が刻まれた壁などはそのままの状態で残されている
「展示エリア」は、有機的な「自然エリア」と対照的に、床・壁・天井の仕上となる木パネルの規格サイズでジオメトリーを計画することで、秩序と反復によって構成しています。壁と天井はフレキシブルな展示が可能なラワン有孔ベニヤ、床は耐久性の高いロシア白樺耐水合板を使用しています。
外壁面の背面をすべて収納とし、大きな面積を必要とする倉庫を設けずに、すべての商品の在庫管理を可能としています。そして、木パネルの規格サイズからくるジオメトリーにそった各所のディテールによって、有孔ベニヤの薄さやその下地となるLGS(軽量鉄骨)が露出し、それが機能性や仮設性を研ぎ澄ませたアウトドアギアの魅力を備えた空間を表現しています。

UPIのスタッフとアドバイザーの寒川一さんによる有孔ベニヤに設置された展示は、商品とその商品を物語るモノや写真、映像で構成しています。商品そのものだけではなく、それぞれのブランドの裏にある人間性や思いを表現することで、深い思いがこもったブランドを代表して扱うことに対しての覚悟も示しています。
唯一可動する家具には、スツールと展示カウンターがあります。それらは「自然エリア」と「展示エリア」の中間的な存在として、縄文土器を想起するようなシンプルかつ原始的な形状を、茅葺職人の相良育弥さんが茅で形づくり、左官職人の都倉達弥さんが漆喰で天板を仕上げました。
家具を大量生産のものではでなく、茅葺職人や左官職人のようなプリミティブな手仕事を行う職人によって制作することは、UPIの自然に対する人間的なアプローチを形にしています。
所在地 | 東京都渋谷区神宮前4-9-3 1F |
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設計 | 山﨑智貴、Javier Viller Ruiz/happenstance collective(HaCo) |
施工 | クレアプランニング株式会社 |
作庭 | ⼭⼝陽介/⻄海園芸 |
茅葺什器 | 相良育弥/くさかんむり |
什器天板左官 | 都倉達弥/左官都倉 |
スチール建具 | 末松貴久/savor |
照明デザイン | ⼭⼝晋司、⻘⽥弥⽣/On&Off |
延床面積 | 150m2 |
竣工日 | 2021年1月8日 |
撮影 | 田中克昌 |