スタートアップの美意識を生む、カルチャーのデザインとは?:第6回「みん...

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デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。KESIKI INC. パートナーを務める石川俊祐さんと、PARK Inc.代表の佐々木智也さんのおふたりをゲストに迎えた第6回目の様子をお伝えする本レポートの後編では、いよいよ今回のテーマ「スタートアップとデザイン」について3人が語り合ったトークセッションの内容をお届けします。
毎回恒例、COEDOビールでの乾杯からトークセッションがスタート!

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大切なのは「Why」と「問い」

西澤明洋さん(以下、西澤):今回のテーマ「スタートアップとデザイン」は、デザイン業界ではホットな話題だと思うので、今日はこの3人で深堀りしていきたいなと思っています。みなさんスタートアップに関わる仕事をしてきているので、それぞれの知見から一緒に考えていきたいですね。それでは、事前にいただいた質問にお答えするところからはじめましょう。

Q.なにかをはじめる、立ち上げるというのはとても大変かと思いますが、その際に一番大切だと感じる点はなんでしょう?また、デザイン力、重要性についてはどう作用しているとお考えでしょうか。

西澤:まずは佐々木さん、「LOGIC」を立ち上げた思いをさきほどお話いただきましたが、一番大切なものってなんですかね?

<strong>西澤明洋</strong> 1976年滋賀県生まれ。ブランディングデザイナー。株式会社<a href="https://www.8brandingdesign.com/">エイトブランディングデザイン</a>代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、スペシャルティコーヒー「堀口珈琲」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、サンゲツ「WARDROBE sangetsu」、スキンケア「ユースキン」、 ITベンチャー「オズビジョン」、賀茂鶴酒造「広島錦」、芸術文化施設「アーツ前橋」、料理道具屋「釜浅商店」、手織じゅうたん「山形緞通」、農業機械メーカー「OREC」、博多「警固神社」、ブランド買取「なんぼや」、ドラッグストア「サツドラ」など。著書に『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4756252524">ブランディングデザインの教科書</a>』ほか。

西澤明洋 1976年滋賀県生まれ。ブランディングデザイナー。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、スペシャルティコーヒー「堀口珈琲」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、サンゲツ「WARDROBE sangetsu」、スキンケア「ユースキン」、 ITベンチャー「オズビジョン」、賀茂鶴酒造「広島錦」、芸術文化施設「アーツ前橋」、料理道具屋「釜浅商店」、手織じゅうたん「山形緞通」、農業機械メーカー「OREC」、博多「警固神社」、ブランド買取「なんぼや」、ドラッグストア「サツドラ」など。著書に『ブランディングデザインの教科書』ほか。

佐々木智也さん(以下、佐々木):絶対に譲れない想いや、大事にしたいことをちゃんとつくれるかどうかですかね。まずはプロダクトやサービス自体をデザインしていかなくちゃいけないので、それをきちんとやらずに表層的なデザインから入ってしまうと、うまくいかないことが多いなと思っています。

西澤:でも、デザインが得意だと最初はクリエイティブから入ってしまおうとしませんでしたか?

佐々木:そこはすごくこらえましたね(笑)。「LOGIC」は、パッケージデザイン自体にはそんなに時間がかかってないんですよ。それよりも、どうしてこの商品をつくりたいと思ったのか、誰に使ってもらいたくて、その人たちのためにどんな商品にするべきかを考えることに、一番時間を費やしました。

佐々木智也 アートディレクター。1979年生まれ。東京造形大学インダストリアルデザイン専攻卒。広告制作会社、Saatchi&Saatch Fallon、面白法人カヤックを経て、2015年にPARK Inc.を設立。 広告やインタラクティブの幅広い経験を活かして新しい産業へのコミットを目指し、 スタートアップ・ベンチャーのコーポレート及びサービスブランディングを中心に、Web、パッケージ、プロダクト、グラフィックなど領域横断的に手掛ける。2020年夏、新規事業としてメンズスキンケアのD2Cブランド「LOGIC」を立ち上げ、自らスタートアップ起業家としてのキャリアもスタートさせる。

僕も化粧品のプロではないので、香りや中身のデザインをする上で、自分で納得のいくものにするまでに、やっぱり時間はかかったんですね。でも、振り返ってみてデザインをやっていてよかったなと思ったのは、いつもやっているグラフィックやWeb、アートディレクションの仕事の延長線上として、「Why」の部分をどのようにつくり上げていくのかを考えることができたことですね。

この商品にはエアゾールというガスが入っていて、プシューっと泡が出るものなんですが、スキンケアをしていない、もしくは途中で投げ出してしまった男性が、スキンケアから離れないようにするためにはどうすればいいのかというコンセプトを考えていく中で、結果的にこの缶の仕様になったんです。

もちろん、缶にすることで空輸ができなくなるため、海外に輸出ができないというリスクもありました。いま、メイドインジャパンのコスメをつくるとすれば、間違いなく韓国や中国、シンガポール、マレーシアといったアジアに輸出することを考えると思うんですが、もともとのコンセプトをまっとうするためには、缶の仕様にしないと他の化粧品と差を生み出せないので、諦めたんです。

西澤:「LOGIC」のキービジュアル、あれは本当に素晴らしいと思うんですが、いつ頃思いついたんでしょう?

「LOGIC」のパッケージとキービジュアル

佐々木:とにかく端的にスピーディに商品の特徴を伝えたいと思っていたら、自然に降りてきたような感覚でしたね。個人的な好みというよりも、自分が「LOGIC」をつくった目的である、ビジネスリーダーなどの忙しい人たちが、手軽にスキンケアができることで仕事に集中できるような商品にすることを、徹底して選択してきたんです。

西澤:本当に届けたい人のためにという、“for you”がデザインにも出てるんですね。

佐々木:そうですね。俺の一番欲しいものをつくってやったぜ、みたいな感じではないので、メンタル的にはなかなか大変でした。もちろん原体験は自分なんですが、落とし込み方としてはあくまでも自分は“one of them”のユーザーです。

西澤:なるほど。石川さんはどうでしょうか?なにかを立ち上げる際に一番大切にされていることと、その時のデザインの重要性について。

石川俊祐さん(以下、石川):われわれには背景となる使命があって、そのためにビジネスをやっているので、マーケットで成功するかどうかに、あまり左右され過ぎていない会社だと思います。

スタートアップに限らず、会社をスケールさせて売却するという前提ではない場合は、一度会社をやりはじめたらずっと続いていきますよね。もしかしたら、10年や20年、さらには50年、100年続く可能性もある。僕らは愛される会社をデザインしたいので、会社をはじめる上で大事にしたいのは、「そこまでしてやりたいことなのか」という「問い」ですね。

<strong>石川 俊祐 </strong> 多摩美術大学特任准教授 日本を代表する「デザイン思考」実践者。企業のブランディング、組織デザイン、教育プログラムの開発から新規事業創出まで、数々のイノベーションプロジェクトを主導する。茨城県生まれ。ロンドン芸術大学Central St. Martins卒業後、Panasonic Design Companyでプロダクトデザイナーとしてキャリアをスタート。英PDD Innovations UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに従事。2018年よりBCG Digital VenturesにてHead of Design/Strategic Design Directorとして大企業社内ベンチャー立ち上げに注力したのち、2019年、九法崇雄、内倉潤とともにKESIKI設立。現在、多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム特任准教授・プログラムディレクター、CCC、NTT com、aperza、XZなど大企業からスタートアップなど複数社のアドバイザーに従事、 D&amp;ADやGOOD DESIGN AWARD、山形エクセレンスデザイン、いばらきデザインセレクションの審査委員を兼任するほか、数々のセミナー、カンファレンスにてキーノートや講師を務めた実績を持つ。Forbes JAPAN世界で影響力のあるデザイナー39名に選出。著書に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』。

石川 俊祐  多摩美術大学特任准教授 日本を代表する「デザイン思考」実践者。企業のブランディング、組織デザイン、教育プログラムの開発から新規事業創出まで、数々のイノベーションプロジェクトを主導する。茨城県生まれ。ロンドン芸術大学Central St. Martins卒業後、Panasonic Design Companyでプロダクトデザイナーとしてキャリアをスタート。英PDD Innovations UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに従事。2018年よりBCG Digital VenturesにてHead of Design/Strategic Design Directorとして大企業社内ベンチャー立ち上げに注力したのち、2019年、九法崇雄、内倉潤とともにKESIKI設立。現在、多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム特任准教授・プログラムディレクター、CCC、NTT com、aperza、XZなど大企業からスタートアップなど複数社のアドバイザーに従事、 D&ADやGOOD DESIGN AWARD、山形エクセレンスデザイン、いばらきデザインセレクションの審査委員を兼任するほか、数々のセミナー、カンファレンスにてキーノートや講師を務めた実績を持つ。Forbes JAPAN世界で影響力のあるデザイナー39名に選出。著書に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』。

スタートアップにおける「人」とカルチャーの重要性

西澤:たとえば、スタートアップ企業からの相談を受ける中で、うまくいきそうかどうかの線引きってあるんですか?

佐々木:予想が当たるかどうかはわからないですが、それはありますよね。

西澤:スタートアップ企業なので、世の中にないものをつくっていくことが多いですし、賭けという要素もあると思いますが、どうやって見極めるんですか?

佐々木:でも、それは人でしかないですよ。

西澤:やっぱり人、ですか。

佐々木:ベンチャーキャピタルの方々と仕事をしていて知ったんですが、ひとつ目の事業で成功することって意外に少ないんですよ。多くの場合はピボット(=事業転換)してやっていく。いま上場して成功していると思われている人たちも、何度か失敗をしてきているんです。うまくいく起業家というのは、成功するまで絶対辞めない人たちで、多くのキャピタリストはそういったところも見ています。起業家も人間なので間違えるかもしれないですし、この事業がうまくいかなかったとしても、別のことでなんとかやっていけそうかどうかを、対話を重ねる中で我々も見るようにしています。

<strong>石川 俊祐 </strong> 多摩美術大学特任准教授 日本を代表する「デザイン思考」実践者。企業のブランディング、組織デザイン、教育プログラムの開発から新規事業創出まで、数々のイノベーションプロジェクトを主導する。茨城県生まれ。ロンドン芸術大学Central St. Martins卒業後、Panasonic Design Companyでプロダクトデザイナーとしてキャリアをスタート。英PDD Innovations UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに従事。2018年よりBCG Digital VenturesにてHead of Design/Strategic Design Directorとして大企業社内ベンチャー立ち上げに注力したのち、2019年、九法崇雄、内倉潤とともにKESIKI設立。現在、多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム特任准教授・プログラムディレクター、CCC、NTT com、aperza、XZなど大企業からスタートアップなど複数社のアドバイザーに従事、 D&amp;ADやGOOD DESIGN AWARD、山形エクセレンスデザイン、いばらきデザインセレクションの審査委員を兼任するほか、数々のセミナー、カンファレンスにてキーノートや講師を務めた実績を持つ。Forbes JAPAN世界で影響力のあるデザイナー39名に選出。著書に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』。

西澤:投資するとなれば当然事業内容や、どんな目論見があるのかもみますよね。僕も個人的にベンチャーに投資しているんですが、どうなるのかとてもどきどきしていて。

このサービスにどんな未来があるのかはやっぱりわからないので、最終的には社長の話を聞くようにしています。ブランディングデザイナーとしても、基本的には会社のトップがどんな“球”を持って走る気なのかを聞かせてもらっていますね。人のほかにも、一緒に走ってみたいかどうかを決めるきっかけはありますか?

佐々木:これはちょっとせこい話かもしれませんが(笑)、誰が出資してるかはみてますね。必ず初期段階には複数の方が出資するので、そのラインナップを見て参考にはしています。キャピタリストやVC、エンジェル投資家など、それぞれ特徴があって、その中でさらに個性や傾向もあるので。実際に仕事を受けることになった時は、投資家の話を聞くようにはしています。

西澤:なるほど。投資家も含めたチームとしてみているんですね。

佐々木:投資家は、共犯者というかメンバーでもあると思うので。それでもやっぱり、事業そのものよりは人です。

石川:僕も近い感覚ですね。彼や彼女にしか見えていない未来や長期的なビジョンを持っているのかということと、そのことに妄信的になれているのかどうか。あとは、自分の思いを成し遂げるために、会社のカルチャーをきちんと設計しようと思っているか。儲かるということと、サステナブルに社員が高いモチベーションの状態でいられるのかについて考えているかどうかですね。

投資家ときちんとミッションやビジョンの話ができないと、「売上をいつ何倍にしてくれるんですか?」という話にしかならないので。儲かるだけじゃない未来の話ができる関係性を、投資家との間で築けているかどうかが大きいと思っています。そうじゃないと、踏ん張らなくてはいけない局面で、何のためにいまこれをやっているのかというストーリーが、投資家も含めたチームに浸透していかないと思うんです。

最近、事業継承についてヒアリングする機会があったんですが、事業継承した会社が新しいことをはじめた途端、5〜7割の社員がごっそり辞めてしまうということがざらにあるそうなんです。

西澤:それはぞっとしますね……。トップが変わると、組織やカルチャーが変わるということですね。

石川:やっぱり、ミッションをどう掲げるかはすごく大事なんですよね。たとえば、化粧品の会社であることをミッションに掲げていると、会社が化粧品技術を使って医療をやるということになった時に、化粧品が好きな社員としては「いやちょっと待ってくれ、それなら別の会社に行きます」と、辞めてしまいますよね。でも、もしミッションが「美しく生きる人を育てる会社」なら、それは化粧品に限った話ではないので、事業が医療に移ったとしても人は離れていかない。そういった、社員の心の中にどうやってミッションを浸透させてくかということが、ブランドをつくる時には重要になってくると思います。

なんだか社内がぎすぎすしているとか、みんなが同じ方向を向いていないなど、自分たちのカルチャーを育むための「カルチャーのデザイン」は、スタートアップの共通の課題としてあると思います。会社が成長して、初期のメンバーたちとはまったく異なる思いを持った人が入ってくると、会社としての走り方が変わってきてしまって、ひとつのチームでやっている感じにならない。そうすると生産性は下がるし、人間関係が悪くなるという問題も出てくる。その時には、やっぱりもう一度原点を見つめ直さないといけないですよね。

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