ユーモアで共感の扉を開く、Whatever Inc.川村真司のクリエー...

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2020年11月から12月にかけて開催された香港のデザインイベント「deTour 2020」。イベント内で実施されたオンライントークイベント「deTour デザイン・ダイアログ」では、特別版として「危機とデザイン」をテーマに、NOSIGNERの太刀川英輔さんとWhatever Inc.の川村真司さんが登壇しました。

コロナ禍という世界的な「危機」の状況の中で、デザインやクリエーションはどのような力を発揮するのか。前回の太刀川さんによるオンライントークレポートに続き、本記事では川村さんよるプレゼンテーション「CREATING SOMETHING PANDEMIC DURING THE PANDEMIC」の模様をレポートします。

リモートでロボットを操作することで美術鑑賞ができる「ROBOT VIEWING」や、配信開始から5日間で46万人にダウンロードされたアプリ「らくがき AR」、そしてdeTourのメイン会場である「PMQ」にて展示されたインスタレーション「FLOCK」の制作の裏側など、Whatever Inc.が実践してきたコロナ禍のクリエーションとは?

リモートワーク、Stay Homeという状況から生まれた新しいエンターテインメント

今日のプレゼンテーションのタイトルは「CREATING SOMETHING PANDEMIC DURING THE PANDEMIC」。コロナ禍に負けずに、どうやって世界に広がるようなクリエーションができるのかということと、僕らが「Whatever Inc.(以下、Whatever)」という会社で何をつくってきたのかについてお話ができればと思います。

<strong>川村真司</strong> Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。東北新社と共同出資して設立した、WTFCのCCOも兼任。数々のブランドのグローバルキャンペーンを始め、プロダクト、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など活動は多岐に渡る。

川村真司 Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。東北新社と共同出資して設立した、WTFCのCCOも兼任。数々のブランドのグローバルキャンペーンを始め、プロダクト、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など活動は多岐に渡る。

(2020年の)4月頃、コロナ禍によって世の中が完全に自粛ムードとなり、我々Whateverでは数億円規模のプロジェクトが吹っ飛びまして、体験型の展示やイベントなどがまったくできなくなってしまいました。

そんな中で、僕たちにできることはなんだろうと考えていたんです。うちはみんな自宅で仕事をしているので、頭を使ってなにかをつくり続けることはできる。いまはみんなが活動停止してしまっていて、クライアントがいない状況で、逆に僕らが自主的になにかをつくれないだろかと考えました。今日は、このコロナ禍だからこそ世の中の役に立ちそうだと考え、時間を投資してきた活動について紹介していきます。

「WFH Jammies」

「WFH Jammies」

「WFH Jammies」は家で働く人々のための部屋着として制作したもので、「WFH」は「Work From Home」の略で、「Jammie」はパジャマという意味です。ZoomやYouTube Liveなどの画角だと、シャツを着た真面目な格好に見えるんだけど、実は下はパジャマになっているという、「寝る前に着れば、起きてそのまま会議に出てもバレない」ことがテーマでした(笑)。

このプロジェクトをはじめた頃から、みんな好き勝手に自主企画をつくりはじめましたね。いまの時期だからこそ必要とされるものってなんだろうとブレストをする中で、リモートワークを一般化せざるをえなくなり、働き方が変わっている中で、それに合ったファッションを新しく考えられないだろうかというアイデアが生まれました。上がスーツで下はパジャマみたいな、ちょっとふざけたアイデアなんですが、うちのデザイナーのスケッチをもとに、裁縫もできるデザイナーがさっそくサンプルをつくってきてくれて、話が進んでいきました。

「WFH Jammies」

僕らがやりたかったのは、笑いを届けるだけではなく、実際にプロダクトとしてちゃんと買うことができて、もし家にあったら本当に便利かもしれないということを信じられるものをつくりたかったんですよね。なので、プロトタイプをもとに細かいディテールについての話し合いをリモートで進めていき、普段クライアントワークで制作するようなロゴデザインについての議論なども、みんなでワイワイと進めていきました。

その後、量産するためのクラウドファンディングを「Kickstarter」で実施し、8か国から目標金額の約470%の資金が集まり、無事に量産することができました。こんなバカバカしい企画を真剣につくる会社もうちくらいなものなので(笑)、お陰でいろんなテレビ番組でも紹介していただけました。

「ROBOT VIEWING」

「ROBOT VIEWING」

次の事例は、NHKと共同で開発を行なった、イベントや展覧会を遠隔で閲覧できる「ROBOT VIEWING」というサービスです。知り合いの展覧会が途中でクローズしたり、開催できなくなってしまっている状況を各所から聞いていて、なんとか遠隔から臨場感を持って展覧会に参加できる仕組みをつくれないだろうかと思っていた頃に、ちょうどNHKから展覧会を実施するにあたって困っているという相談がありまして。そこで、東京芸術大学美術館で開催していた「あるがままのアート」展に向けて、試しにつくってみようということからはじまりました。

これは「テレプレゼンスロボット」と言われる既存のマシンを使用したプロジェクトになるんですが、以前にも同じような形でシステムをつくったので、今回僕らはダブルロボティクス社の「Double 3」という最新のマシンをベースに、新しいプログラムをつくることで制作を進めました。少し前のロボットビューイング系のマシンは、衝突検知がついていないことや費用面から一般化されていなかったのですが、「Double 3」は衝突検知がついており、マシンが絵画にぶつかってしまうリスクを回避できるため、一般的に運用できるプラットフォームやサービスとして開発を進めていきました。

「ROBOT VIEWING」

既存の「Double 3」のプログラムから僕らが新たにつくったのは、まずは一人しか入れなかったシステムを、最大5人まで入れるようにしたことです。そうすることでたくさんの人が同時に体験できるようになる。仲間と話しながら絵画を鑑賞するという、一人で体験するよりもちょっと楽しい共体験をつくることができるので、そのためにプログラムを改良していきました。画面の上下やズームインなど、簡単に操作することができて、写真が撮れる機能や、途中で迷子にならないための地図の表示など、わかりやすいUIになるように工夫していきました。

また、展示館のWebサイトにカレンダーを埋め込むだけで、簡単に空き状況の確認や日時予約ができるシステムをつくったので、Web予約から一気通貫して使うことができるパッケージとして、今後もさまざまなイベントで使っていただけるようにしていきたいと思います。

「らくがきAR」

「らくがきAR」

3つ目は、描いたらくがきがARで飛び出す「らくがき AR」という自社開発のアプリです。らくがきを描いて、スキャンボタンを押すだけでらくがきがAR空間に飛び出し、勝手に動き出します。らくがきをつついて遊んだり、タップすると食料が落ちてきたりして、ご飯を食べすぎるとうんちをするという隠し機能があったり(笑)。おもに子どもが遊ぶためのアプリとして開発しました。

どのように企画がはじまったかというと、たくさんの子どもたちが“Stay Home”しなければいけない状況で、もちろん、テレビを見たりゲームをしたりという遊び方もありますが、もっと創造力を働かせつつ、新しいタイプのエンタメ体験を提供できないかなと考えていたことがきっかけでした。

「らくがきAR」

ARアプリはたくさんありますが、「らくがき AR」で特徴的だったのが、らくがきたちの骨の仕組みを想像して自動で入れ込むというシステムを開発したところで、社内では「ホネボーンシステム」と呼んでいます(笑)。どんなかたちを描いても、輪郭が検出されて生き物らしく動いているのは、このシステムによって成立しています。

結果として、App Storeの無料ランキングおよび有料ランキングで世界8か国でナンバー1になるほどの人気になりました。配信開始から5日間で46万人にダウンロードしていただいて、いろんなメディアにも取り上げていただきました。子どもをメインにつくっていたんですが、漫画家や絵師の方々の間でもすごく話題にしていただいて、ワンピースの作者である尾田栄一郎さんも取り上げてくれたり。

これは単機能のアプリなんですが、それが逆によかったのかなと思っています。夢があるし、テクノロジーもそんなに複雑じゃなくて、ボタンをポチッとするだけでマジカルな現象が起きる。子ども向けなので、ことばに依存しないようにつくったことが、世界中でも広まった理由なのかなあと思っています。

リモートで制作されたインスタレーション「FLOCK」

FLOCK

「FLOCK」は、今回のdeTour2020のために制作したインスタレーションです。世界中の人たちと一緒に空を飛べるというアイデアで、deTourを開催している「PMQ」から、メインの展示を考えてくれないかという依頼をいただき制作しました。

オリエンテーションの時に、「Matter of Life」というイベントのメインテーマについて聞いてはいたのですが、当初からコロナが流行しはじめている時期だったので、万が一開催できなくなってしまったり、フィジカルな体験展示ができなくなってしまう可能性を考えると、オンラインでも同じように楽しめて、参加できるアイデアにした方がいいんじゃないかということが、チーム内の意識としてはじめからありました。

Webサイトにアクセスすると、鳥の群れのように500人ぐらいが大空を飛び回っていているのを見ることができます。これらはズームしたりマウスで回転させることもできて、「JOIN THE FLOCK」をクリックして、自分の写真をアップロードすれば、自分も空を飛ぶ一人に参加できるんですね。また、時々飛んでいる人たちのかたちがハートやスマイリーフェイスになったりもします。

deTourでの展示の様子

deTourでの展示の様子

会場のフィジカルの展示では、設置されたフォトブースで写真を撮ると、目の前の大画面に自分が飛び込んで、みんなと一緒に羽ばたいて飛んでいくようなインスタレーションになっています。フィジカルに会えないいまだからこそ、バーチャルでみんなと会えるような体験をつくる、というコアのコンセプトがPMQのメンバーの共感を得ることができ、このアイデアで制作を進めることになりました。

すでに制作時期には香港への渡航ができない状況だったので、今回はすべてリモートでつくらないといけなかったんですが、クリエイティブのディレクションやデザイン、Webサイト制作は東京と台北のチームで制作を進めていき、フィジカルの展示制作では、そこに香港の施工会社が加わり、3社協働で制作を進めました。

deTourでの展示の様子

通常、空間系の仕事は最後に現場でディテールを詰めていますが、今回はそれが一切できなかったので、なるべくエラーが少ないように、ミニマルなデザインで成立するように心がけました。もっとも大変だったのはインスタレーションのデザインでした。やっぱり空を飛ぶというアイデアだったので、天井型のディスプレイや高く吊り上げて設置する案なども出したのですが、消防法による高さの制限や、構造的な問題などがあったため、現実的な落とし所を現地のベンターと何度もキャッチボールしながら探っていきました。ダイアグラムなどの図やイメージ、配線の仕組みがわかるシステムチャート、ワイヤーフレームなどを現地のスタッフに送って、空間構成やLEDスクリーン、什器などについてやりとりを続けました。

その中で、だんだん落ち着きどころが見えてきて、ディスプレイが直置きになったり、実際に仕上がったものを見たらバックボードやモニターがやたら分厚かったりしたんですが(笑)、安全基準を満たすために仕方なかった面もあり、リモートという制約があった中でも、なんとかかたちになったんじゃないかなと思っています。

deTourでの展示の様子

危機を乗り越えるクリエーションに、楽しさとユーモアを

こういったコロナ禍で生み出されたものは、僕ら以外にも世界中ですごくたくさんあるんですよね。そこで、コロナ禍で生まれたクリエーションを集めた展示をやりたいと思い、我々で企画した『コロナ禍でのクリエーション』という展示を、NHKさんに持ち込んで実施しました。

誰に頼まれるでもなく、クリエイターは諦めずにつくり続けていて、それは辛い時にこそ楽しまなくちゃいけないという人間の気持ちの表れだったり、つらい気持ちを打破するためのクリエーションだったりするので、そういったものを集めることで、逆境に立ち向かうクリエイティブな心を感じられる展示になったんじゃないかな思います。

会場では、アマビエをみんなで描いて、バーチャルの海の上に現れるようなインスタレーションの展示や、世界中から集めた映像作品、バーチャル渋谷をフットマットで歩き回れるような作品など、ソーシャルディスタンスが取れるような展示導線を床に施した上で、さまざまなクリエーションが紹介されています。

今回紹介したプロジェクトは、コロナという危機があったからこそ生まれたものではないかと思います。デザイナーである僕らができることは、ただ自粛するだけじゃなくて、危機によって生まれてしまった社会環境をちゃんと俯瞰することで、むしろその環境から生まれたアイデアをどのように次につなげていくかが大事だと思っています。

デザイナーは課題があったら解きたくなる性分なんですよね。僕は「デザイン」というのは名詞というより動詞だと思っていて、かたちのないものにかたちをつくったり、解決していない問題を解決することだと考えています。美しいものをつくるということだけじゃなくて、システムやルールを考えることもデザインだと思うので。

いまのコロナ禍といった危機や災害は、ある意味では課題が明確になるタイミングだと思います。点在しているランダムな課題を見つけて解いていくのがデザイナーだとすると、社会が大きな課題を解くタイミングは、デザイナーとしては活躍しやすいし、後押ししてくれる仲間を見つけやすいと思うんです。僕はエンタメ寄りの性分なので、飛沫防止といった直接的な解決につながるものよりも、エンターテインメントに関するアイデアが多いのですが、「ROBOT VIEWING」や「FLOCK」といった作品も、人と会うことができないコンテキストがあった上で、それを乗り越えるためのアイデアから生み出しています。

個人的な嗜好でもあるんですが、やっぱり楽しめるアイデアじゃないと暮らしの中に取り入れたいと思わないんですよね。楽しさやユーモアというのは、人の心をぐっと掴む、共感という扉を開けることができる。コロナ禍の以前と以後で、デザインやクリエーションへの向き合い方や、考える脳のプロセスはあまり変わっていないと思いますが、こういった危機的状況だからこそ、もっとポジティブになるようなメッセージを込めたアウトプットになるように意識はしています。引き続き課題に向き合っては解いていくという根幹は変えずに、クリエイターとして美しい解決策を見つけていきたいと思っています。

文・構成・編集:堀合俊博(JDN)

deTour 2020
https://www.detour.hk/2020/en/

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