北陸から新たな工芸を発信する「GO FOR KOGEI 2024」。5回目となる今年は、石川県金沢市・東山エリアと富山県富山市・岩瀬エリアを舞台に、合計37名(15名+4組)のアーティストによる作品が展示されています。
テーマは「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」。ホワイトキューブではなく、暮らしの場において工芸やアートを鑑賞できるのが本展の特徴です。それぞれ地域の文化を色濃く感じる場所で、工芸的なアイデア、ものの見方、考え方を軸としたいまの美術の広がりを紹介しています。
本記事では、両エリアから数点の作品をピックアップし、地域の魅力とともにご紹介します。
【金沢市・東山エリア】生活の「できごと」のなかに取り入れられる工芸
川合優×塚本美樹「経⽊の蓮弁⽫」で⾷べる四知堂のスペシャルメニュー
東日本大震災のあと、津波に襲われた地区に残るゴミの山を目の当たりにし、「土に還る」という自然のサイクルを意識した制作をおこなうようになった木工家の川合優さん。作品は薄く削った経木の皿で、会場のひとつである台湾料理店「四知堂(スーチータン)kanazawa」にて料理とともに提供されます。
本作も使用後は土に還すことができ、会期終了後には実際に皿を土に還すハイキング型のワークショップ「森の案内⼈・三浦豊さんと巡る、《循環する》津幡の森」が実施されます。捨てるという行為を捉えなおすことで生まれた作品です。
八木隆裕「茶筒」
八木隆裕さんは京都で150年近く続く茶筒屋の6代目です。現代~110年前につくられた茶筒を順に並べることで、創業以来変わらない茶筒の形と技術を展示します。茶筒に使用されるブリキは人の手が触れることで色が変化するため、変わらない技術のなかにも時間の蓄積が感じられます。
また、茶筒の蓋は空気を筒の外に逃がしながら自動で閉まるのが特徴。その様子を世界中の海や山、砂漠などで撮影した動画を展示し、どのような気象環境でも同じ性能を発揮することを表現しています。
赤木明登×大谷桃子
こちらは輪島塗の作家・赤木明登さんと信楽焼の作家・大谷桃子さんによるコラボレーション展示。テーマは「今は亡き数多の工人と共に」。中央に積まれているのは、輪島塗の最初の工程でつくられる、お椀を挽くための材料「荒型(あらがた)」です。
分業制の輪島塗は、ひとつの器をつくるのにさまざまな職人が関わりますが、いま、荒型屋は一人しか残っておらず、その一人が廃業してしまうとお椀がつくれなくなってしまうといいます。
積み上げられた荒型の裏手には、輪島で昔から使われている「入輪(いりわ)」と呼ばれる箱が積み重ねられ、上には赤木さん作の水瓶がのっています。輪島塗を運んでいたという入輪は、いまではプラスチックのコンテナに入れ替わり、廃れてしまいました。さらに、奥の壁には大谷桃子さんが描いた蓮の花の絵が。
「重要なのは、いま生きている職人が共同でものをつくりあげていくこと。一人では何もできないが、力を合わせることで個人の力を超えたものをつくることができる、その象徴として展示をおこなっている」と赤木さんは語ります。
古い家屋が残る街並みが魅力の東山エリア。景観を楽しみながら、奥まった道を進んでいくと徐々に観光客もまばらに。道中には飲食店やギャラリーが点在し、つい足が止まります。
竹俣勇壱×鬼木孝一郎
「手工業」をコンセプトに生活道具やジュエリーを製作する竹俣勇壱さんと空間デザイナー・建築家の鬼木孝一郎さんのコラボ展示では、2021年に制作された持ち運べる照明をはじめ、新たに制作された家具を紹介。金属のある暮らしを提案します。
展示のひとつ、ステンレスでできたこちらの椅子は、一枚の板を捻ってつくられたひじ掛けと背もたれが、軽く、柔らかい印象を与えます。「捻り」という金属の特性を活かしながら、金属の重く、固いイメージを覆す作品です。
また、同会場では竹俣さんによる真鍮製の盃を使用した振る舞い酒の提供も。日曜・祝日の15時から1時間半限定で、この盃に合った美味しいお酒をいただくことができます。
三浦史朗+宴KAIプロジェクト
さらに東山エリアの住宅街を進んだ先、坂の上に見えてくるのは、建築家・三浦史朗さんと10名以上の職人たちがつくってきた実験的な道具の数々を保管する倉庫です。
ここにある道具は、いずれも「宴会」のためにつくられています。この「宴会」とは、室町時代におこなわれた「淋間茶湯」と呼ばれる宴から発想したもので、お風呂で汗を流してから食事をいただき、最後に茶と菓子を楽しむというもの。
例えば、桶職人の中川周士さんは浴槽と風呂道具一式、屏風を製作。
また、15ミリ角のアルミ素材でつくられた組立茶室は、来客にお茶を提供するためのスペース。会期中はここで期間ごとに3種類のお茶が提供され、香りの体験を楽しむことができます。
同作品には、ものづくりのプロセスにおいて、つくり手と依頼主とが対話する場として宴会を催したいという意図が込められているといいます。また、どの道具もばらして移動できる仕様となっており、遊び心がうかがえます。
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